遠隔転移または遠隔転移再発の乳がんと診断された方へ。
一番大切なのは今の生活をあきらめないこと
遠隔転移・再発乳癌と診断された方にとって、最も大切なのは、今の生活をあきらめないことです。
残念ながら現在の医療技術では、遠隔転移(乳房周辺以外の臓器への転移)を起こした乳癌を完全に治すことは難しいとされていますが、乳癌の進行を抑えながら乳癌と診断される前の生活を維持するお手伝いはできます。
国立がん研究センターの報告では遠隔転移を診断された方の5年生存率(5年後に命が続いている確率)は40%程度*とされていますが、これはあくまで統計学的なデータであり、実際には遠隔転移が発覚して1年以内に亡くなってしまう方もいれば、10年以上生きられる方までいらっしゃいます。
つまり、奇跡のような症例は存在するということです。
この記事では、遠隔転移を起こした乳癌についての基礎知識と、治療の考え方について解説していきます。
*乳房:[国立がん研究センター がん統計]
遠隔転移ってなに?再発とは違うの?Stage 4との違いは?
ミルクの管(乳管)から飛び出した癌細胞が血管やリンパ管に紛れ込んで全身を巡り、リンパ節や肺、肝臓、骨などで芽を出して大きくなってしまうことを転移と呼びます。
同じ乳房内や乳房の近くのリンパ節(脇の下など)への転移は領域内の転移と呼ばれ、遠隔転移とは異なります。再発というのは一度手術や手術前後の治療で完治した乳癌が、乳房やその近く、あるいは遠くの臓器に再度出てきてしまうことを言い、手術で温存した乳房や全摘をした後の胸の壁の皮膚に出てきたものを局所再発、乳房の近くのリンパ節(=領域リンパ節)に出てきたものを領域再発、遠くのリンパ節や他の臓器に出てきたものを遠隔再発と呼びます。そして、初めて乳癌と診断された時点で遠くの臓器やリンパ節に転移を起こしてしまっている(=遠隔転移を起こしている)場合をStage 4と呼びます。
乳がんと診断された時点で遠くのリンパ節や臓器に転移を起こしている=Stage 4
乳がんの手術や手術前後の治療をしたあとに
遠くのリンパ節や臓器に転移を起こした=遠隔再発
手術をした方の乳房の近くのリンパ節に転移を起こした=領域再発
手術をした方の残した乳房や胸の壁の皮膚に転移を起こした=局所再発
今回はこのうち、治療が困難なStage 4と遠隔再発の乳癌についてお話していきます。
乳がんと診断された時点で遠くのリンパ節や臓器に転移を起こしていた=Stage 4
乳がんの手術とその前後の治療をしたあとに遠くのリンパ節や臓器に転移を起こした=遠隔再発
遠隔転移は治らない?
乳癌が遠隔転移を起こしてしまった場合、残念ながら今の医療技術では完全に治すことができません。乳癌の進行を治療で抑えつつ、いかに長く今の生活の質を維持するかを最優先に治療選択をしていくことになります。
少しでも体の中の癌を少なくするために抗癌効果の高い抗がん剤を使ったとしても、副作用等で生活の質が落ちてしまっては意味がないという考え方になります。
癌がこれ以上大きくならず、生活の質がそこまで下がらない治療をなるべく長く継続することができればそれは治療成功ということになります。
また、手術で乳房内のしこりを切除したとしても、転移先のしこりが残っていますし、まだ芽を出していない癌細胞が全身に隠れているため、手術をすることは最終的な命の長さには影響しないとされています。
治療をしないという選択肢はあるのか
では、転移・再発乳癌と診断されたら、治療をする意味がないのでしょうか。
厳しいことを言うと、治療をしなかったからといって、すぐに人生の幕を閉じることができるわけではありません。
しこりが大きくなって皮膚を飛び出してしまったら染み出しや出血のケアが必要になりますし、骨に転移をすれば医療用麻薬による痛み止めが必要になったり、転移による骨折を起こせば介護が必要になる可能性もあります。そういった大変な状況をなるべく先送りに、そしてなるべく短くするという点で治療をすることは意味があります。少しでも長く、乳癌と診断される前の生活になるべく近い生活を維持することが最大の目標になります。
遠隔転移が進行するとどんな症状が出てくるのか
遠隔転移を起こした乳癌から生じる症状は転移の場所によって異なります。
脳・・・頭痛、吐き気、けいれん、麻痺、しびれ、めまいなど
肺・・・せき、息切れ、息苦しさ、胸に水がたまる(息苦しさや痛みがでる)
胃・・・むかむか、みぞおちあたりの痛みなど
肝臓・・・血液検査で肝臓の数値の上がる、右腹部の痛み、眼や皮膚が黄色くなる(黄疸)
おなかの袋のなか(腹膜播種)・・・おなかに水がたまる、便秘、おなかの痛み
骨(背骨以外)・・・転移した骨の部分の痛み、骨折
背骨・・・背中の痛み、手足のしびれ、排尿・排便がしにくい
薬物治療でがんの進行が抑えられなくなると、徐々に上記のような症状が出現します。がんの進行を抑えられるように薬剤を変更しながらに治療をしていきますが、使用可能な薬剤が尽きる、あるいは症状が重く、身体が治療に耐えられなくなってしまうと、その後はがんを抑えるのではなく、症状を感じなくさせることを主軸において治療をしていきます。
骨が痛ければ医療用麻薬による痛み止めを使用し、胸やおなかに水がたまれば針を刺して水を抜いたりします。
息苦しさや痛みがどうしようもなくなった際には、医療用麻薬を皮膚に点滴したり、張り薬をつかって感覚を鈍らせたりします。
緩和ケアについて
前述のように、がんを抑制する治療ではなく、症状をとる、あるいは感じなくさせる治療や、本人や家族への精神的サポート全般をひっくるめて緩和ケアと呼びます。
緩和ケアは乳癌の治療が続けられなくなった人に行うというわけではありません。
がんを抑える治療(薬物療法など)はがんの進行を抑える効果は強いですが、症状をとることは苦手だったりします。そこで、がんを抑える治療と緩和ケアを同時に行っていくことが生活の質を維持するために必要になります。
家族のサポート
また、家族のサポートも重要です。遠隔転移が進行すると、しばしば骨折や麻痺、おなかの水や息苦しさによって自分の身の回りのことが難しくなってきます。転移と診断されたらずぐにというわけではありませんが、いずれはそのような状態をむかえてしまいます。その時には、トイレまでの歩行や入浴、食事や服薬のサポートなど、家族の力が必要になります。
介護サービスの利用
しかしながら、家族の力にも限界があると思います。がんとたたかう皆さんの中にも、家族には頼れない、公共の力を借りたいという方は多いのではないでしょうか。
乳癌の遠隔転移と診断された方の多くは、40歳以上であれば要介護認定や介護保険サービスの利用が可能です。毎日は難しくても、定期的に訪問看護や訪問介護を受けて入浴のサポートをしてもらったり、服薬のチェックをしてもらったりすることが可能です。
申請に必要な書類や手続きについても今後まとめていきますのでそちらをご覧ください。
まとめ記事が出来上がるまでの参考ページ:医療費の負担を軽くする公的制度:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
最期の過ごし方
非常に悔しいことではありますが、人間はいつか最期をむかえてしまいます。最期をどう過ごしたいかは人それぞれの価値観によって異なると思います。
医療従事者や介護職員によるサポートや他の入所者との関わりがある療養施設で過ごしたい、
痛みや苦しさなどの症状へのサポートが手厚い緩和ケア病棟のある病院、
多少不便で症状が辛くても住み慣れた家で家族と過ごしたい
など、様々な考え方があります。
どのような最期を迎えるかを考えることは怖くて、辛くて、苦しいこととは思います。しかし、がんというのはある時から急速に進行し、あっという間に最期の瞬間を迎えてしまうということも少なくありません。事前に心の準備をして、家族や医療従事者と意思を共有しておくことはご自身の理想の最期の過ごし方をするうえで非常に大切なことです。
医療者としては皆さんがどのような選択をしても後悔しないようにサポートをしていきます。
最後に
冒頭に治すことはできないと書きましたが、奇跡のような症例はあります。転移・再発乳癌と診断されてから何年、何十年も生きて、寿命を迎えて亡くなる方も存在はしますから、あきらめず、できる治療を行っていくことをおすすめします。



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