「乳がんです」と告げられた瞬間、多くの方は頭が真っ白になります。「がん」という言葉の重みに、その後の説明があまり耳に入ってこなかった、という方も少なくありません。
でも、大丈夫です。慌てて全部を理解する必要はありません。
まずは「乳がんって、そもそも何なんだろう?」という、いちばん根っこのところから、ゆっくり一緒に確認していきましょう。ここを押さえておくと、これから出てくるたくさんの専門用語や治療の話が、ずっと理解しやすくなります。
乳がんは「乳房にできるがん」
とてもシンプルに言うと、乳がんは乳房の組織から発生するがんです。
ただ、この「乳房の組織」というのがポイントです。乳房の中には、まるでアリの巣のように、ミルクを作る場所(「小葉(しょうよう)」と呼びます)と、ミルクの通り道(「乳管(にゅうかん)」と呼びます)が、張り巡らされています。
乳がんの90%以上は、このミルクの通り道(乳管)から発生します。残りの数%が、ミルクを作る場所(小葉)から発生するタイプです。
そもそも「がん」って何が起きているの?
私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。細胞は古くなったら死んで、新しい細胞と入れ替わる、というサイクルを毎日くり返しています。
このサイクルは、細胞の中にある設計図(DNA)によって、きちんとコントロールされています。
ところが、何かのきっかけでこの設計図に「キズ」がついてしまうことがあります。
たいていの場合、体には修復する仕組みがあるので問題ないのですが、修復しきれないキズが積み重なると、その細胞は次のような困ったふるまいを始めます。
がん細胞が起こす4つのこと
- 必要もないのに勝手に増え続ける
- 死ぬべきタイミングで死ななくなる
- 周りの組織を押しのけて広がっていく
- 血管やリンパ管に入り込んで、遠くの臓器に飛んでいく
これが「がん」です。乳房の細胞でこれが起きたものが、乳がんというわけです。
日本で乳がんはどれくらい多いの?
日本人女性の約9人に1人が、生涯で乳がんになると言われています。これは、女性のがんの中でいちばん多い数字です。
年間に新しく診断される方はおよそ9万人以上。決して珍しい病気ではなく、あなたの周りにも、すでに経験された方がきっといらっしゃいます。
年齢で見ると、40代後半から60代がもっとも多い世代です。ただし、20代・30代の若い方や、70代以降の方にも発症します。男性の乳がんもまれにあります。
乳がんは「ゆっくり育つ」がんです
ここはぜひ覚えておいてほしいのですが、乳がんは比較的ゆっくり育つタイプのがんです。
たとえば、1cmの大きさになるまでに、平均で7〜10年かかると言われています。「最近気づいたしこり」も、実は何年も前から少しずつ育っていた可能性が高いのです。
これを聞くと「もっと早く気づけばよかった……」と感じる方もいらっしゃいます。でも、見方を変えれば、「明日急に手遅れになる」というタイプの病気ではないということでもあります。
だから、診断を受けた直後に「すぐ手術しないと!」と焦らなくて大丈夫。自分の状態を知って、納得して治療を選ぶ時間は、ちゃんとあります。
乳がんは「治る」可能性が高いがんです
もうひとつ、知っておいてほしい大事なことがあります。
乳がんは、がんの中でも治療法がもっとも進歩している分野のひとつです。早期に見つかれば、5年生存率は90%を超えます。ステージⅠであれば、ほぼ99%の方が5年後も元気に過ごしています。
「乳がん=命が危ない」というイメージは、もう古い考え方です。今は、乳がんと付き合いながら長く生きていく時代になっています。
ただし、もちろん油断は禁物です。乳がんには進行が早いタイプもありますし、いったん治療が終わっても何年も経ってから再発することもあります。
だからこそ、ご自身の乳がんが「どんなタイプなのか」を知ることが、すごく大切になります。そのカギになるのが、サブタイプとステージという考え方です。これは別の記事で詳しく解説します。
なぜ乳がんで命を落とすことがあるのか
「乳房のしこり」だけなら、本当はそれほど命に関わる病気ではありません。
乳がんで命を落とすのは、ほとんどの場合、がん細胞が乳房の外に飛び出して、ほかの臓器に広がってしまったときです。これを「転移(てんい)」と呼びます。
乳がんが転移しやすい場所は、骨・肺・肝臓・脳などです。これらの大切な臓器に、がん細胞が住みついて増えてしまうと、その臓器のはたらきが落ちて、命に関わってきます。
逆に言えば、転移を防ぐことこそが、乳がん治療の最大のテーマです。
乳がんの「顔」はひとつじゃない
最後に、これからの治療を理解するうえでとても大事なお話を。
ひとくちに「乳がん」と言っても、実は性格の違う複数のタイプがあります。
乳がんの3つの大きなタイプ
- 女性ホルモンを「食べる口」を持っていて、ホルモンを栄養に育つタイプ(ホルモン陽性乳がん)
- 増殖シグナルを受け取る「アンテナ」(HER2)をたくさん持っているタイプ(HER2陽性乳がん)
- そのどちらも持っていないタイプ(トリプルネガティブ乳がん)
これらはまったく違う病気と言ってもいいくらい、効く薬も、進み方も、治療の組み立て方も違います。
つまり、「乳がんの治療」と一括りに言うことはできず、あなたの乳がんの顔つきに合わせた、あなただけの治療計画が立てられることになります。
「ネットで調べたらこう書いてあったのに、私の主治医は違うことを言う」というすれ違いの多くは、ここに原因があるよ。あなたの乳がんは、隣の人の乳がんとは違うのです。
「がん」という言葉におびえてしまう気持ちは、当然のものです。でも、正しく知ることで、少しずつ霧が晴れていきます。
このサイトでは、あなたが自分の乳がんを理解して、納得して治療を選べるように、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。一緒に、ゆっくり進んでいきましょう。