乳がんってどんな病気?

はじめまして。乳腺外科医ブレきゃん!と申します。

この記事にたどり着いた皆さんは、きっと「乳がん」と告知され、少しでも情報を得るために検索してこられたのだと思います。

まずは安心してください。皆さんは正しい場所にたどり着いています。ここでは乳がんと診断された方やご家族に、乳がんになっても「最高の人生」を送ってもらうために、全力でサポートをしていきます。

この記事では、まずは「乳がんって、そもそも何?」という、いちばん根っこのところから、ゆっくり一緒に確認していきましょう。乳がんを知ることで、これからの治療の道のりが、ずっと歩きやすくなるはずです。

窓辺の光のなか、患者さんの肩にそっと手を置く先生のシルエット

乳がんは「乳房にできるがん」

シンプルに言うと、乳がんは乳房の組織から発生するがんです。

乳房の中には、ミルクの通り道「乳管(にゅうかん)」とミルクを作る場所「小葉(しょうよう)」が、アリの巣のように張り巡らされています。

乳房の断面図。小葉・乳管・乳頭を示した模式図

乳がんの80〜90%は、このミルクの通り道(乳管)から発生します。残りの一部が、ミルクを作る場所(小葉)から発生するタイプです。

そもそも「がん」って何が起きているの?

私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。細胞は古くなったら死んで、新しい細胞と入れ替わる、というサイクルを毎日くり返しています。

このサイクルは、細胞の中にある設計図(DNA)によって、きちんとコントロールされています。

細胞のサイクルの模式図。生まれ・働き・死んで入れ替わる流れを表す

ところが、何かのきっかけでこの設計図に「キズ」がついてしまうことがあります。

たいていの場合、体には修復する仕組みがあるので問題ないのですが、修復しきれないキズが積み重なると、その細胞は次のような困った行動を始めます。

がん細胞の4つの困った行動

    • 必要もないのに勝手に増え続ける
    • 死ぬべきタイミングで死ななくなる
    • 周りの組織を押しのけて広がっていく
    • 血管やリンパ管に入り込んで、遠くの臓器に飛んでいく
左右で対比した細胞の水彩画。落ち着いた細胞群と、密に増殖していく細胞群

これが「がん」です。乳房の細胞でこれが起きたものが、乳がんというわけです。

日本で乳がんはどれくらい多いの?

日本人女性の約9人に1人が、生涯で乳がんになると言われています。これは、女性のがんの中でいちばん多い数字です。

9人の女性のシルエット。そのうち1人にピンクリボン

年間に新しく診断される方は約10万人(2023年)。

決して珍しい病気ではなく、あなたの周りにも、すでに経験された方がきっといらっしゃいます。

年齢で見ると、40代後半から増えはじめ、50〜70代でとくに多くなります。ただし、20代・30代の若い方や、80代以降の方にも起こります。まれではありますが、男性でも乳がんになります。

年齢別に見た、乳がんと新しく診断される人数(女性・2023年)
20代
約300人
30代
約3,300人
40代
約17,000人
50代
約21,000人
60代
約20,100人
70代
約23,800人
80代
約13,600人
90歳〜
約3,400人

出典:全国がん登録 2023年(国立がん研究センター がん情報サービス)。5歳階級の罹患数を年代別にまとめた概数。

乳がんは「基本的にはゆっくり大きくなる」がんです

乳がんは、ほかのがんに比べると比較的ゆっくり育つタイプが多いと言われます。

ただし、これは平均の話で、実際はタイプや性質によって育つスピードに幅があるので注意が必要です。

  • ホルモン陽性タイプ:比較的ゆっくり育つことが多い(最も多いタイプ)
  • HER2陽性タイプ(HER2については後ほど解説します):早めに育つことがある
  • トリプルネガティブタイプ:早く育つことが多い

ホルモン陽性乳がんが最も多いため、乳がんはゆっくり大きくなると言われるわけですね。 (一方、HER2陽性やトリプルネガティブは早めに育つことがあるので、自分のタイプを知ることが大切です)

去年の検診では何もなかったのに、今年1cmのしこりが見つかった、というケースも珍しくありません。
つまり「1cmまでに何年」と一律で言えるものではなく、タイプによって全然違うというのが実際です。

ここでお伝えしたいのは、多くの場合、診断を受けてから自分の状態を知り、納得して治療を選ぶ時間はちゃんとあるということです。

ただし、進行が早いタイプもあるため、いつまでに何を決めればよいかは主治医と確認しながら進めましょう。

ブレきゃん!

だから、診断を受けた直後に「すぐ手術しないと!」と焦らなくて大丈夫。自分の状態を知って、納得して治療を選ぶ時間は、ちゃんとあります。

乳がんは「治る」可能性が高いがんです

もうひとつ、知っておいてほしい大事なことがあります。

乳がんは、がんの中でも治療法がもっとも進歩している分野のひとつです。早期に見つかれば、5年生存率は90%を超えます。ステージⅠであれば、ほぼ99%の方が5年後も元気に過ごしています。

「乳がん=命が危ない」というイメージは、もう古くなりつつあります。今は、ステージIVであっても、乳がんと長く付き合いながら過ごせる方も増えています。

ただし、もちろん油断は禁物です。乳がんには進行が早いタイプもありますし、いったん治療が終わっても何年も経ってから再発することもあります。

だからこそ、ご自身の乳がんが「どんなタイプなのか」を知ることが、すごく大切になります。そのカギになるのが、サブタイプとステージという考え方です。これは別の記事で詳しく解説します。

なぜ乳がんは命に関わるのか

「乳房のしこり」だけなら、本当はそれほど命に関わる病気ではありません。

乳がんで命を落とすのは、ほとんどの場合、がん細胞が乳房の外に飛び出して、ほかの臓器に広がってしまったときです。これを「転移(てんい)」と呼びます。

人体のシルエットに、乳房から骨・肺・肝臓・脳へ淡いラインが伸びている水彩画

乳がんが転移しやすい場所は、骨・肺・肝臓・脳などです。これらの大切な臓器に、がん細胞が住みついて増えてしまうと、その臓器のはたらきが落ちて、命に関わってきます。

逆に言えば、転移を防ぐことこそが、乳がん治療の最大のテーマです。

乳がんの「サブタイプ」は4つ

最後に、これからの治療を理解するうえでとても大事なお話を。

ひとくちに「乳がん」と言っても、実は性格の違う複数のタイプがあります。

「ホルモンを食べる口」と、「HER2(ハーツー)」という増殖シグナルを受け取るアンテナ。この2つを持っているかどうかで、大きく4タイプに分かれます。

乳がんの4つの大きなタイプ

    • ホルモンの「食べる口」だけを持つタイプ(ホルモン陽性HER2陰性)
    • HER2の「アンテナ」だけを持つタイプ(ホルモン陰性HER2陽性)
    • その両方を持つタイプ(ホルモン陽性HER2陽性)
    • そのどちらも持たないタイプ(トリプルネガティブ)

これらはまったく違う病気と言ってもいいくらい、効く薬も、進み方も、治療の組み立て方も違います。

つまり、「乳がんの治療」と一括りに言うことはできず、あなたの乳がんの顔つきに合わせた、あなただけの治療計画が立てられることになります。

ブレきゃん!

「ネットで調べたらこう書いてあったのに、私の主治医は違うことを言う」というすれ違いの多くは、ここに原因があるよ。あなたの乳がんは、隣の人の乳がんとは違うのです。

「がん」という言葉におびえてしまう気持ちは、当然のものです。でも、正しく知ることで、少しずつ霧が晴れていきます。

このサイトでは、あなたが自分の乳がんを理解して、納得して治療を選べるように、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。一緒に、ゆっくり進んでいきましょう。

先生と患者さんが朝の光のなかへ並んで歩いていく後ろ姿の水彩画

※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。

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