「乳がんって、ぜんぶ同じ病気じゃないんですか?」
実はこれ、診察室でいちばんよく聞かれる質問のひとつです。
答えはこうです。乳がんは、性格の違う複数のタイプの集まりです。一括りに「乳がん」と呼ばれてはいるけれど、効く薬も、進み方も、治療の組み立ても、タイプによってまったく違います。
このタイプ分けを「サブタイプ」と呼びます。
自分の乳がんがどのサブタイプなのかを知ることは、ステージを知ることと同じくらい——いえ、ある意味それ以上に大事です。なぜなら、治療の中身そのものを決める軸だからです。
サブタイプはどう決まる?3つの検査値で分かれる
サブタイプは、手術や針生検で取った組織を病理検査することで分かります。
具体的にチェックするのは、次の3つの「目印(マーカー)」です。
サブタイプを決める3つのマーカー
- ER(エストロゲン受容体):女性ホルモンを「食べる口」
- PgR(プロゲステロン受容体):もうひとつの女性ホルモンを受け取る口
- HER2:「もっと増えなさい!」という命令を受け取るアンテナ
これに加えて、増殖の速さを示す「Ki-67」も補助的に使われます。
これらの陽性/陰性の組み合わせで、大きく3つのタイプに分かれます。
タイプ① ホルモン陽性乳がん(Luminal型)
ER または PgR が「陽性」のタイプ——つまり、女性ホルモンを「食べる口」を持っている乳がんです。日本人の乳がんでもっとも多く、全体の約70%を占めます。
ホルモン陽性タイプの特徴
- 女性ホルモン(エストロゲン)を「食べて」育つ
- 比較的ゆっくり増える
- 予後が良いタイプが多い(特にLuminal A型)
- ホルモン療法(5〜10年の内服)が治療の柱になる ── 栄養源のホルモンを断つ作戦
- HER2の状況によってサブ分類が変わる
- 再発リスクは低めだが、長期間(10年以上)にわたって続くことがある
タイプ② HER2陽性乳がん
HER2 が「陽性」のタイプ——つまり、「増えなさい!」という命令を受け取るアンテナをたくさん持っている乳がんです。乳がん全体の約15〜20%を占めます。
HER2陽性タイプの特徴
- アンテナが多いぶん、増殖が速い
- 昔は予後が悪かったが、抗HER2薬の登場で激変した
- 抗HER2療法(ハーセプチンなど)が劇的に効く ── アンテナを狙い撃ちする薬
- 多くの場合、抗がん剤と組み合わせて治療する
- ホルモン陽性の有無でさらに分類される
- 再発リスクは比較的早い時期(2〜5年)に集中する
タイプ③ トリプルネガティブ乳がん(TNBC)
ER も PgR も HER2 も、すべて「陰性」のタイプです。乳がん全体の約10〜15%を占めます。
トリプルネガティブタイプの特徴
- 増殖が速い傾向にある
- ホルモン療法も抗HER2療法も効かない
- 治療の中心は抗がん剤
- 最近は免疫療法(PD-L1陽性の場合)も加わる
- 若い世代に多い、BRCA変異との関連も強い
- 再発リスクは早い時期(2〜3年)に集中
- 5年以上経つと、再発リスクは他のタイプより低くなる
「効く薬が少ない」と言われがちなトリプルネガティブですが、実はここ数年で治療の選択肢が一気に増えています。
PD-L1という目印に着目した免疫療法、PARP阻害薬、抗体薬物複合体(Trodelvyなど)——以前なら考えられなかった選択肢が次々と承認されています。
「トリプルネガティブ=怖い」というイメージは、もう古い情報です。新しい薬がどんどん使えるようになっているので、最新情報をきちんと得ることが大切です。
4つのサブタイプにまとめると
ER/PgRとHER2の組み合わせで、もう少し細かく見るとこうなります。
| HER2陰性 | HER2陽性 | |
|---|---|---|
| ER/PgR陽性 | Luminal A / B(ホルモン陽性HER2陰性) 約60% | Luminal HER2(ホルモン陽性HER2陽性) 約10% |
| ER/PgR陰性 | トリプルネガティブ 約15% | HER2陽性(ホルモン陰性) 約5% |
ざっくりこの4ブロックを覚えておくと、診察での話がグッと分かりやすくなります。
サブタイプで治療はこう変わる
それぞれのサブタイプで、治療の主役になる薬が違います。
主な治療の主役
- ホルモン陽性HER2陰性:ホルモン療法 + 必要に応じてCDK4/6阻害薬・抗がん剤
- ホルモン陽性HER2陽性:抗HER2療法 + ホルモン療法 + 抗がん剤
- ホルモン陰性HER2陽性:抗HER2療法 + 抗がん剤
- トリプルネガティブ:抗がん剤 + 免疫療法(PD-L1陽性の場合)
なので、「同じ乳がんなのに、なんで隣の人と治療が違うの?」ということが起きるわけです。
自分のサブタイプを確認する方法
病理レポート(病理結果)を見れば、必ず書いてあります。
病理レポートで確認したい項目
- ER(エストロゲン受容体):陽性 / 陰性、または%やAllred score
- PgR(プロゲステロン受容体):陽性 / 陰性、または%やAllred score
- HER2:0、1+、2+、3+ で表記。3+は陽性、2+はFISH追加検査
- Ki-67:%で表記。増殖の速さの目安
レポートを受け取ったら、ぜひ主治医に「私のサブタイプは何ですか?」と聞いてみてください。
サブタイプを知ることは、自分の乳がんと向き合う第一歩。病理結果を見て分からないことがあったら、遠慮せずに聞いてくださいね。