「抗がん剤を始めたら、ひどい吐き気に襲われるのでは……」——そんな不安を抱えて、この記事を開かれた方も多いのではないでしょうか。
たしかに、吐き気は抗がん剤のつらい副作用のひとつです。心配になるのは、とても自然なことだと思います。
でも、どうか安心してください。「抗がん剤=吐く」というイメージは、もう古いものになりつつあります。いまは、強力で多彩な制吐剤(吐き気止め)を組み合わせることで、吐き気をかなりの程度コントロールできるようになっています。
この記事では、その吐き気止めにどんな種類があって、どう使い分けるのかを、ひとつずつ見ていきましょう。
制吐剤の主な種類
吐き気止めは、大きく分けて4つのタイプがあります。
制吐剤の4カテゴリ
- 5-HT3受容体拮抗薬(セロトニン)
- NK1受容体拮抗薬(サブスタンスP)
- ステロイド
- ドパミン受容体拮抗薬
それぞれが、吐き気を起こす別の経路を抑えます。組み合わせて使うことで効果が高まります。
① 5-HT3受容体拮抗薬
吐き気を起こす、いちばん代表的な経路を抑える土台の薬です。
- グラニセトロン(カイトリル)
- パロノセトロン(アロキシ)
- オンダンセトロン(ゾフラン)
抗がん剤を投与する日に、点滴や飲み薬として使います。
② NK1受容体拮抗薬
吐き気が強めに出やすい抗がん剤(中等度〜高度催吐性)のときに、追加で使う薬です。
- アプレピタント(イメンド)
- ホスアプレピタント(プロイメンド)
3〜5日間ほど飲み続けることが多いです。
③ ステロイド
吐き気の経路を、全般的に抑えてくれる薬です。
- デキサメタゾン(デカドロン)
抗がん剤の前後に、短期間だけ使います。
④ ドパミン受容体拮抗薬
予防していても吐き気が出てきたときに、追加で使う「レスキュー」の薬です。
- メトクロプラミド(プリンペラン)
- オランザピン(ジプレキサ、新しい使い方)
標準的な組み合わせ(中等度〜高度催吐性)
では、実際にはどう組み合わせるのでしょうか。吐き気が比較的強く出やすい抗がん剤(中等度〜高度催吐性)では、たとえば次のような形で使います。
術前抗がん剤(EC/AC)の例
- 当日:5-HT3拮抗薬+NK1拮抗薬+ステロイド
- 2〜4日目:NK1拮抗薬+ステロイド
- 必要時:レスキュー薬
投与した当日だけでなく、吐き気が遅れて出てくる数日後まで見越して、薬を組み立てているのが分かりますね。「治療の日だけ我慢すれば終わり」ではなく、その後の数日もしっかり支える設計になっています。
副作用
制吐剤にも副作用があります。
- 5-HT3拮抗薬:便秘・頭痛
- NK1拮抗薬:しゃっくり・倦怠感
- ステロイド:高血糖・気分のたかぶり・不眠
- ドパミン拮抗薬:眠気・錐体外路症状
どれも、あらかじめ知っておけば慌てずにすむものばかりです。気になる症状が出てきたら、我慢せず医療チームに伝えてくださいね。
まとめ
吐き気は、いまや「起きてから耐えるもの」ではなく「前もって防ぐもの」へと変わってきました。それでも出てしまうことはありますから、つらいときは一人で抱え込まず、すぐに伝えてください。最後に、ここまでのポイントを整理しておきましょう。
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。