乳がんというものと向き合うにあたって、避けて通れないのが、「乳房の中はそもそもどうなっているのか?」という疑問です。
乳房の中身を知ることで、乳がんを治療する意味、乳がんを放っておくとどうなるのか、どんな治療に効果があるのか、納得して向き合っていくことの助けになります。
それでは、ふだんあまり意識することのない乳房の中身について、ゆっくり見ていきましょう。
乳房の中身は「アリの巣」のように張り巡らされている
乳房の中身は、まるでアリの巣のような構造をしています。
- 小さな部屋の集まり(=「小葉」、ミルクを作る場所)があちこちに散らばっている
- それぞれの部屋から細いトンネル(=「乳管」、ミルクの通り道)が伸びて、乳頭(にゅうとう)に向かって集まっている
- アリの巣のまわりは小石や土(=「脂肪や繊維組織、合わせて間質(かんしつ)」、乳管の隙間を埋める)でおおわれている
- 土には水道や排水管(=「血管やリンパ管」、全身から栄養を届けたり、老廃物を流し出したりする)が走っている
アリの巣のように張り巡らされたミルクの通り道と、その先端で枝分かれするミルクを作る場所、この2つを土がふっくらと包みこんで、乳房のかたちを作っています。
乳がんはどこから生まれるのか
乳がんの80〜90%は、乳管(ミルクの通り道)の壁を構成している細胞から発生します。残りの一部が、小葉(ミルクを作る場所)の壁の細胞から発生します。
つまり、ほとんどの乳がんは、ミルクの通り道の「内側の壁」から始まる病気なのです。
乳房の周りには何があるか
乳房の中身を知るうえで、もうひとつ大切なのが「周りに何があるか」です。
大胸筋(だいきょうきん)
乳房の奥には、胸の大きな筋肉である大胸筋があります。乳房そのものは大胸筋の上に乗っかっている、というイメージです。
乳がんが進行すると、乳管の壁をやぶり、間質も通り越して胸の筋肉までがんが食い込んでいくことがあります。これを大胸筋浸潤(しんじゅん)といいます。
かつては、手術で大胸筋をすべて取ってしまう時代がありました(ハルステッド手術)。しかし、現代の乳がん手術では「残せるものは残す」が原則であり、大胸筋によほど食い込んだがんでない限りは、大胸筋をとってしまうことはありません。
リンパ管とリンパ節
乳房の中には、血管のほかに「リンパ管」という細い管がたくさん走っています。リンパ管は体の老廃物や免疫細胞を運ぶ通り道で、「排水管」のような役割があります。
リンパ管の先には、要所要所に「リンパ節」という関所があります。ここでは、体に入ってきた異物を食べた偵察係の免疫細胞が「こんなものが入ってきたよ/あったよ!」と報告し、適切な攻撃係の免疫細胞が派遣されます。
乳房を流れるリンパ液は、まず脇の下のリンパ節(腋窩(えきか)リンパ節)に集まるとされています。乳がん細胞が乳房から飛び出したとき、最初に流れ着くのもここです。
だから、乳がんの手術では、乳房だけじゃなくて脇の下のリンパ節も一緒にチェックするんだ。詳しくは No.1007 リンパ節とは で解説するよ。
皮膚
乳房を覆っている皮膚も、実は乳房の一部として治療の対象になります。
乳がんが進行して皮膚に炎症を起こしたり、がんが直接皮膚に食い込んだりすると、皮膚にむくみや変色、引きつれが出ることがあります。
おおもとのしこりが皮膚に近い場所にあるときには、細かいがん細胞が皮膚に食い込んでいて取り残してしまうことを防ぐため、手術で皮膚も一部切除します。
「乳腺濃度」という言葉の意味
もしかすると検診で耳にしたことがある言葉かもしれませんが、マンモグラフィを撮像すると「乳腺濃度が高い」「高濃度乳房」などと言われることがあります。
これは、乳房のなかで「小葉や乳管などの組織(=乳腺)」と「脂肪」のどちらが多いかを表したものです。
乳腺濃度の4つの分類
- 脂肪性:ほぼ脂肪(マンモグラフィで真っ黒に見える)
- 乳腺散在:脂肪のなかに乳腺がぱらぱら
- 不均一高濃度:乳腺が多めで、所々に密集
- 高濃度(極めて高濃度):乳腺がぎっしり詰まっている
若い方や閉経前の方は、乳腺濃度が高い傾向があります。閉経後は脂肪に置き換わって、徐々に低くなっていきます。
左右で大きさが違うのは普通
乳房は左右で完全に同じ大きさ・かたちというわけではありません。多くの方が、わずかに左右差を持っています。
ふだんから左右差があるのは心配ありませんが、「最近になって急に左右差が目立ってきた」「片方だけ硬い場所がある」というときは、念のため受診をおすすめします。
ご自身の乳房の構造をなんとなくでもイメージできるようになると、これからの治療の道のりがきっと歩みやすくなるでしょう。
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。