「浸潤癌(しんじゅんがん)」「非浸潤癌(ひしんじゅんがん)」——この違いをご存知でしょうか。ここまでの記事を読まれた方であれば、すでになんとなくイメージができている方も多いかもしれません。
なんだか難しそうな響きですが、ここを理解すると、自分の乳がんが「将来のリスクがどういうものか」「どんな治療が必要か」が分かるようになります。
この記事では、だれでもしっかり理解できるように、この2つの違いをやさしく解説していきます。
一言でいうと「ミルクの管の中にとどまっているかどうか」
乳がんの多くは、ミルクの通り道である「乳管(にゅうかん)」の中で生まれます。
そして、生まれたばかりの乳がん細胞は、最初はその管の中にとどまっています。これが「非浸潤癌」です。
時間が経つと、一部のがん細胞は管の壁を破って、外の世界に飛び出してきます。これが「浸潤癌」です。
なぜこの違いが大事なのか
この違いは、ただの分類ではありません。なぜ重要かというと、転移するかどうかに直結するからです。
がんが転移するためには、まず血管やリンパ管に入り込む必要があります。
ところが、血管やリンパ管はすべて、ミルクの通り道(乳管)の「外側」にあります。
つまり、がん細胞がミルクの通り道の中にとどまっている限り(=非浸潤の状態)、転移する経路が物理的にないのです。
非浸潤癌(ステージ0)の特徴
非浸潤癌について、もう少し詳しく整理します。
非浸潤癌のポイント
- ミルクの通り道の中だけにとどまっている早期のがん
- リンパ節転移や遠隔転移は基本的にしない
- 適切に治療すれば、ほぼ100%の方が長く元気に過ごせる
- 「ステージ0」と分類される
- マンモグラフィで「石灰化」として見つかることが多い
- しこりとして触れないことが多い
非浸潤癌の治療は主に手術です。手術で取り切ってしまえば、理論上がん細胞は体から全くなくなります。
ただし、乳房を温存する手術のあとは、同じ乳房の中で再発(局所再発)が起こることがあります。検査では見つからなかったがん細胞が残した乳房で生き延びている場合や、全く新しいがん細胞がミルクの管から生まれること(この場合は厳密には再発ではなく新たな乳がん)が原因と言われています。部分切除のあとに残した乳房へ放射線治療が必要なのは、このためです。
また、非浸潤癌は検診のマンモグラフィで、点々とした石灰化(カルシウムの沈着)が見つかって、組織検査で非浸潤癌と分かる、というパターンが代表的です。そのため、はっきりしたしこりがないこともあり、部分切除でしっかりとりきることが難しい場合があります。「ステージ0なのに全摘?」ということが起きるのは、このためなんですね。
しこりとして自分で気づくことは少なく、検診のおかげで見つかる「早期発見の代表的なかたち」とも言えます。
非浸潤癌で見つかった方は、早期発見の検診の力が、しっかり働いた結果なんです。
浸潤癌の特徴
一方、浸潤癌は乳管の壁を破って外に出てしまった状態です。
浸潤癌のポイント
- ミルクの通り道の外に広がっている
- 血管・リンパ管に入り込む可能性がある
- 転移するリスクがある(ただし、たくさんの「壁」を乗り越える必要がある)
- ステージⅠ〜Ⅳに分類される
- しこりとして触れることが多い
- 治療は乳房の手術+必要に応じて全身治療を組み合わせる
浸潤癌だからといって、必ず転移するわけではありません。
ただ、がん細胞が全身にめぐってしまっている可能性がゼロではないので、見えないところに散らばっているかもしれないがん細胞をやっつけることが必要になります。これには「全身治療(抗がん剤・ホルモン療法・分子標的薬 など)」を、必要に応じて組み合わせます。
浸潤と非浸潤が混在している場合は「浸潤癌」
実際の臨床では、浸潤と非浸潤の両方が混ざっている乳がんもよくあります。
たとえば、しこりの中央は浸潤癌で、その周りに非浸潤癌が広がっている、というイメージです。
病理レポートを見たときに「IDC + DCIS」と書かれていたら、「浸潤の部分と非浸潤の部分が両方ありますよ」という意味です。
このとき大事なのは、浸潤の部分があれば「浸潤癌」として治療方針を考える、ということです。
非浸潤の部分がたくさんあっても、ほんの少しでも浸潤があれば、それは浸潤癌としての対応になります。
治療方針はどう変わるか
浸潤か非浸潤かによって、治療の組み立て方は変わります。
ただし、これは「典型的にはこうなる」という一般論で、最終的にはサブタイプ・ステージ・年齢・ご本人の希望などをすべて踏まえて、主治医と一緒に決めていくものです。
| 非浸潤癌 | 浸潤癌 | |
|---|---|---|
| 手術 | する(部分切除 or 全摘) | する(部分切除 or 全摘) |
| 放射線治療 | 部分切除なら基本する | 部分切除なら基本する |
| ホルモン療法 | ホルモン陽性なら検討 | ホルモン陽性なら基本する |
| 抗がん剤 | 基本不要 | 必要に応じて |
| 抗HER2療法 | 基本不要 | HER2陽性なら基本する |
非浸潤癌では「全身治療(抗がん剤や分子標的薬)」が基本不要なのが、最大のメリットです。
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。