「うちは母も叔母も乳がんで……これって遺伝なんでしょうか?」
家族に乳がんの方がいると、「うちって乳がん家系なの?」と不安になりますよね。とくに娘さんがいらっしゃる方は、心配もことさら強いのではないでしょうか。
でも、実は心配されるほど、遺伝性乳がんの確率は高くありません。そもそも日本人女性の9人に1人が乳がんになる時代ですから、家族や親せきに乳がんの方がいること自体、そこまで珍しくないんです。
そのうえで、乳がん全体の5〜10%ほどは、生まれ持った遺伝子の変化が関わる「遺伝性」と言われています。今回は、その代表と仲間たちを整理していきますね。
まず、数字で見てみましょう
かたよりのない日本人の乳がん患者さん7,051人を調べた研究では、5.7%もの方に、何らかの遺伝性の変異が見つかりました。内訳はこんな感じです。
日本人乳がん患者で見つかった遺伝子(頻度順)
- BRCA2:2.71%
- BRCA1:1.45%
- PALB2:0.4%
- CHEK2:0.37%
- ATM:0.31%
- ほかに TP53・PTEN なども少数
つまり、遺伝性とわかった方の約半数がBRCA1/2。残りはそれ以外の遺伝子、というわけですね。
代表は「HBOC(遺伝性乳癌卵巣癌)」
遺伝性乳がんでもっとも多いのが、HBOC(エイチビーオーシー/エイチボック)です。
BRCA1/BRCA2は、もともとDNA(設計図)の傷を直す**“修理係・校正係”**。設計図に小さな傷ができたとき、それを見つけて直す係です。この係が生まれつき弱めだと、傷の直しが追いつかず、がんが発生しやすくなります。
検査や保険のことは No.1012 HBOCとBRCA検査 で詳しく解説しています。
そのほかの遺伝性疾患
HBOC(BRCA)以外にも、乳がんと関わる遺伝子があります。リスクの高さで、ざっくり2つに分けてみます。
高リスク(乳がんリスクが高い遺伝子)
- TP53(Li-Fraumeni〔リ・フラウメニ〕症候群):若年での乳がん・肉腫など
- PTEN(Cowden〔カウデン〕症候群):乳がん・甲状腺がん・子宮体がんなど
- STK11(Peutz-Jeghers〔ポイツ・ジェガース〕症候群):乳がん・消化器がんなど
- CDH1:小葉がん・胃がん
- PALB2:BRCAに次ぐ頻度
中リスク(リスクがやや上がる遺伝子)
- ATM:放射線への感受性が高め
- CHEK2 / BARD1 / RAD51C / RAD51D
調べるなら「まとめて」も
海外では、BRCAだけでなく複数の遺伝子を一度に調べる検査(多遺伝子パネル検査)が主流になりつつあります。一度に分かるぶん、上で挙げた遺伝子もまとめてチェックできます。
ただし日本では、この多遺伝子パネル検査はまだ保険の対象外(2024年時点)で自費。そのため、まずは保険で受けられるBRCA検査から、というケースが多いのが現状です。
「遺伝性かも」と疑うサイン
家族歴のなかに、こんなパターンがあると遺伝性の可能性が考えられます。
遺伝性を疑うパターン
- 自分または血縁者が45歳以下で乳がんになった
- 自分が両側の乳がんになった
- 自分または血縁者が卵巣がんになった(年齢問わず)
- 男性の血縁者が乳がんになった
- 血縁者にトリプルネガティブ乳がんの人がいる
- 1家系で3人以上の乳がん患者がいる
- 膵臓がんの血縁者がいる
ひとつでも当てはまる方は、主治医に「遺伝性かどうかの相談」を打診してみてもいいかもしれません。
遺伝カウンセリングという選択肢
遺伝性疾患の検査を受けるかどうかは、本人と家族の人生に関わることなので、慎重に決めたいところ。そこで日本では、検査の前に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。
カウンセラーは「こうしなさい」と指示するのではなく、検査でわかること・わからないこと、家族へどう伝えるか、予防をどう考えるか、を一緒に整理してくれます。そして——「検査を受けない」という選択も、まったく正しい選択です。
「検査して陽性だったらどうしよう」と怖くなる気持ち、よくわかります。でも、知らないまま不安を抱え続けるより、知って対策できるほうが未来を守れる、という考え方もある。受けないことも正解のひとつだから、自分の価値観をしっかり見つめて決めようね。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医・遺伝の専門医とご相談ください。