「BRCA検査って、受けたほうがいいですか?」
近年、こう質問される機会がぐっと増えました。アンジェリーナ・ジョリーさんが予防切除を公表して以降、BRCAという言葉が広く知られるようになったからですね。
このページは、HBOCとBRCA検査の”いちばん詳しい基礎ページ”です。検査の意味・保険・結果の読み方・その後の選択肢まで、順番に整理していきます。
HBOCってどんな体質?
HBOC(遺伝性乳癌卵巣癌)は、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の変化を生まれ持っているために、乳がん・卵巣がんになりやすくなる体質です。
BRCA1/BRCA2は、もともとDNA(設計図)にできた傷を直す**“修理係・校正係”**のような遺伝子。この係が生まれつき弱めだと、傷がたまりやすくなり、がんが発生しやすくなります。
HBOCの生涯リスク(変異がない人と比べて)
- 乳がん:約40〜70%(一般の方は約9%)
- 反対側の乳がん(同時または時間差で):20〜60%
- 卵巣がん:10〜40%(一般の方は約1〜2%)
- 膵臓がん・男性の前立腺がん:やや上昇
数字を見るとドキッとしますが、「100%なる」ではありません。BRCA変異(正確には「病的バリアント」といいます)があっても、発症しない方もいます。
どれくらいの人がHBOC?
乳がん全体の5〜10%が遺伝性で、そのうち約半数がBRCA1/2によるHBOCです。HBOCの体質を持つ方は、人口のおよそ400〜500人に1人といわれています。決して「特別なごく一部の人」だけの話ではありません。
BRCA検査とは
BRCA検査は、採血だけで受けられる遺伝子検査です。血液から取り出したDNAを調べ、BRCA1/BRCA2に病的な変異があるかを確認します。結果が出るまでに2〜3週間ほどかかります。
保険適用で受けられる人
BRCA検査は2020年4月から、条件を満たせば保険適用(3割負担)で受けられるようになりました。
保険適用の主な条件(ご自身が当てはまる場合)
- 45歳以下で乳がんを発症した
- 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんを発症した
- 両側、または片側に2個以上の乳がんを発症した
- 卵巣がん・卵管がん・腹膜がんを発症した
- 膵臓がんを発症した
- 男性で乳がんを発症した
- 進行・再発した乳がんで、治療方針(PARP阻害薬の適応など)の判断に必要な場合
- 3親等以内の血縁者に、乳がん・卵巣がん・膵臓がんを発症した方が1名以上いる
しかも2020年4月からは、検査だけでなく、遺伝カウンセリング・リスクを減らす手術(後述のRRM/RRSO)・定期検査(サーベイランス)も、がんを発症した方には保険適用になりました。日本にとって大きな前進です。
検査結果の3パターン
検査結果は、大きく3つに分かれます。
検査結果の3パターン
- 陽性(病的バリアントあり):病気を起こす変異が見つかった → HBOC
- 陰性(病的バリアントなし):病気を起こす変異は見つからなかった
- VUS:今は判断を保留する変異(病気を起こすかまだ分からない)
陰性でも、ひとつ注意。今回調べたのはBRCA1/2だけなので、ほかの遺伝子の関与や、検査で拾いきれない変化までは否定できません。気になる家族歴がある場合は、複数の遺伝子をまとめて調べる検査(No.1011 で紹介)も選択肢になります。
VUSは「変化はあるけれど、病気につながるかは今の医学ではまだ分からない=判断保留」という意味で、“悪い結果”でも”残念な結果”でもありません。研究が進むと数年後に「問題なし」または「あり」へ判定が変わることがあり、変わったときに連絡が来る体制をとっておくのが望ましいとされています。
病的バリアント陽性だったら、何ができる?
HBOCと分かった場合、これからのがんを減らすための選択肢が広がります。あくまで”選択肢”で、全部やるものではありません。
陽性のときの主な選択肢
- 反対側の乳房を予防的に切除:RRM(リスク低減乳房切除術・保険適用)
- 卵巣・卵管を予防的に切除:RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術・保険適用)
- 切らない場合は定期検査の強化(乳房MRIなど)
- 治療への影響:PARP阻害薬(オラパリブ=リムパーザ、タラゾパリブ=ターゼナ)が使える
- 血縁者の検査(現状は自費)
予防的な手術はとても大きな決断です。十分にカウンセリングを受けて、納得して選ぶことが何より大切。実施できる施設も条件が厳しく、がんセンターや大学病院が中心です。
予防の手術をするかしないかに、絶対的な正解はないんだ。「自分の人生で何を大事にしたいか」が決め手の中心になる。焦らず、納得いくまで相談してね。
遺伝カウンセリングという伴走者
HBOCは、一度きりではなく人生の節目ごとに付き合っていくものです。だから日本では、検査の前後に遺伝カウンセリングを受けることが基本になっています。
カウンセラーは「こうしなさい」と指示するのではなく、あなたが自分で納得して選べるように、情報の整理と心のサポートをしてくれます。
遺伝カウンセリングで一緒に考えること
- 検査でわかること・わからないこと
- 結果が出たあとの気持ちの変化と、その備え
- 予防の手術・検査をどう考えるか
- 血縁者へどう伝えるか(伝える/伝えないも含めて)
「保険に入れなくなる」の心配について
以前は気にされる方が多かった点ですが、いまは生命保険・損害保険の業界が「加入や支払いの審査に遺伝情報は使わない」と表明しています(2022年)。さらに2023年には、遺伝情報による不当な差別を防ぐゲノム医療推進法という法律もできました。過度に心配しなくて大丈夫です。
「家族に伝えるかどうか」も大きなテーマ
検査で陽性とわかった場合、血のつながった家族——とくに親・子・きょうだいには50%の確率で同じ変異があります(おじ・おば・甥・姪など遠い血縁では25%・12.5%と下がります)。
なお、検査を受けない・知らないでおく、という選択も尊重されます。受けない場合も、これまでどおりの検診や相談はいつでもできますし、気が変わればいつ受けてもかまいません。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針や検査の適応は、病状・検査結果・体調・価値観によって異なります。必ず主治医・遺伝の専門医とご相談ください。