免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ(キイトルーダ)やアテゾリズマブ(テセントリク))は、免疫のブレーキを外してがんを攻撃させる治療です。そのため、ブレーキを外された免疫が、まれに自分の正常な臓器を攻撃してしまうことがあります。これが「irAE(免疫関連有害事象)」と呼ばれる副作用です。
この記事では、よく起きるirAEについて、どのくらいの頻度で・どんな症状で・どう対処し・どの診療科が協力してくれるのかを、ブレきゃん流に臓器ごとにやさしく整理していきます。
irAEは、ふつうの抗がん剤の副作用と何が違う?
抗がん剤の副作用(吐き気・脱毛・白血球減少など)は、だいたい「いつ・どんな症状が出るか」が決まっていて、時間がたてば回復していくものが多いです。
一方でirAEは、免疫が相手なので少し勝手が異なります。
irAEの3つの特徴
- 体のどこに出るか分からない(皮膚・腸・肺・肝臓・ホルモンの臓器・神経・目・心臓…と全身どこでも)
- いつ出るか幅がある(治療の途中だけでなく、治療が終わって何ヶ月〜何年もたってから出ることもある)
- 対処のしかたが副作用ごとに違う(多くはステロイドで免疫を抑えるが、そうでないものもある)
これらの特徴を踏まえて、大切なのは次のとおりです。
この後、症状の名前や数字がたくさん出てきますが、全部を覚える必要はありません。「体のいろんなところに出ることがある」「がまんせず相談する」
まずはこの2つだけ心にとめておいてくださいね。
まず知っておいてほしい「危険サイン」
ほとんどのirAEは軽く、早めの対応で落ち着きます。ただし、まれに急いで対応しないと命に関わるものもあります。次の症状が出たときは、予定の受診日を待たず、すぐに連絡・受診してください。
これらは、抗がん剤そのものや、かぜ・胃腸炎など別の原因でも起こります。ですから「これはirAEだ」と決めつける必要はありません。大事なのは、原因が何であれ自己判断せず、早めに相談することです。
よく起きるirAE 一覧
まず、比較的よく起きるirAEを一覧にまとめました。頻度は目安で、同じ副作用でも報告によって幅があります。ここでは、乳がんで使う免疫療法薬(抗PD-1/抗PD-L1抗体)での報告に基づく数字を載せています。
| 副作用(出る場所) | めやすの頻度 | 出やすい時期 | みてもらう科 |
|---|---|---|---|
| 皮膚の障害 | 3〜4割(30〜40%) | 早い(平均5週ごろ) | 皮膚科 |
| 甲状腺(こうじょうせん)の異常 | 低下で5〜8%・亢進で2〜4% | 6〜12週ごろ | 内分泌内科 |
| 下痢・大腸炎 | あわせて3〜4割(30〜40%) | 数週〜(重いと7〜11週) | 消化器内科 |
| 肝臓の障害 | 1〜10% | 8〜16週ごろ | 消化器内科 |
| 肺の障害(間質性肺炎) | 2〜10%(多くは約3%) | 早めが多い | 呼吸器内科(+感染症科) |
| 腎臓の障害 | 2〜5% | 遅め・幅広い(中央値14週) | 腎臓内科 |
| 下垂体の機能低下 | 0.5〜1.1% | 6〜12週ごろ | 内分泌内科 |
| 副腎の機能低下 | 0.7〜0.9% | 1〜数ヶ月ごろ | 内分泌内科 |
| 1型糖尿病 | 0.3〜3.49% | いつでも(幅広い) | 糖尿病内科 |
| インフュージョンリアクション | 1〜4% | 点滴中〜直後 | その場の担当(主治医・看護師) |
こうして並べると多く感じるかもしれませんが、上の3つ(皮膚・甲状腺・おなかの臓器)で大半をしめます。そして、その多くは症状が軽くて、塗り薬や飲み薬で対応しながら治療を続けられるものなんですね。
臓器ごとのirAEの種類
irAEは「症状で気づくもの」と「症状が出にくく、検査(採血など)で見つけるもの」があります。臓器も多岐にわたるので、ひとつずつゆっくり見ていきましょう。
皮膚の障害
いちばん多く、いちばん早く出るirAEです。抗PD-1抗体でおよそ3〜4割(30〜40%)の方に、皮膚の症状が出ると報告されています。多くは軽く、かゆみ・発疹・赤み・皮膚の乾燥などです。抗がん剤を組み合わせても、重症の皮膚障害が増えることはないとされています。
重症になることはまれ(Grade3以上で3%未満)ですが、発熱をともなったり、目・口・陰部などの粘膜に症状が出たりするときは、重い皮膚障害のサインのことがあるので、早めに伝えてください。
対処は、軽ければ塗り薬(ステロイドの外用薬)やかゆみ止めで治療を続けられます。重ければ、いったんお休みして飲み薬のステロイドを使います。みてもらうのは皮膚科です。重い皮膚障害では、目を守るために眼科も加わることがあります。
下痢・大腸炎
皮膚に次いで多く、下痢と大腸炎をあわせると3〜4割(30〜40%)の方にみられます。症状は、下痢・腹痛・血便や粘液の混じった便・排便回数の増加などです。まれですが、腸に穴があく(腸穿孔)重症もあるため、軽く見ないことが大切です。
このirAEで知ってほしい注意点はこちら。
治療は、いったんお休みしてステロイド(飲み薬や点滴)を使います。効きにくいときは、別の免疫を抑える薬を追加することもあります。感染による下痢と見分ける必要があるため、便の検査をすることもあります。みてもらうのは消化器内科です。治療が終わって数ヶ月たってから出ることもあります。
肺の障害(間質性肺炎)
肺に炎症が起きるもので、頻度は2〜10%(多くの報告で約3%)です。数は多くありませんが、急に進んで重くなることがあるので、注意が必要なirAEです。
症状は、息切れ・から咳・発熱などです。早いうちは症状がなく、画像検査だけで見つかることもあります。かぜや肺炎(感染)ともまぎらわしいので、胸のCT検査で見分けます。
もともと間質性肺炎がある方は、治療前に呼吸器内科と相談しておくと安心です。
肝臓の障害
肝臓の炎症で、頻度は1〜10%です。この副作用の特徴は、ほとんど症状が出ないことです。だからこそ、定期的な採血(肝機能の検査)で見つけることが大切になります。
多くは検査の数値の異常だけで、軽いものです。異常が見つかったら、感染やお酒、ほかの薬など別の原因がないかを確かめたうえで対応します。軽ければ様子を見て、必要なら飲み薬や点滴のステロイドを使います。みてもらうのは消化器内科です。
なお、まれに膵臓(すいぞう)や胆管の炎症が起きることもあります。膵臓は、症状がなく検査の数値(アミラーゼなど)だけ上がることが多く、その場合は治療を続けられることがほとんどです。
腎臓の障害
腎臓の炎症で、頻度は2〜5%と比較的まれです。肝臓と同じく、ほとんど症状が出ないため、定期的な採血(腎機能・クレアチニン)で見つけます。出るのが遅めで、時期の幅が広いのも特徴です。
むくみ・尿の量が減る・尿の色や様子が変わるといった変化があれば、相談してください。治療はお休みしてステロイドを使い、多くは回復します。みてもらうのは腎臓内科です。胃薬(プロトンポンプ阻害薬)を飲んでいる方は、リスクに関わることがあるので、飲んでいる薬を主治医に伝えておくとよいです。
甲状腺(こうじょうせん)の異常
甲状腺は、のどぼとけの下にある、体の元気さを調整するホルモンを出す臓器です。ホルモン系のirAEの中ではいちばん多く、甲状腺の機能が下がる「低下症」は抗PD-1抗体で8.0〜8.5%(抗PD-L1抗体で4.7〜6.0%)、逆に高くなる「亢進症(中毒症)」は2〜4%ほどと報告されています。
多くは、次の2段階の経過をたどります。
甲状腺の異常でよくある2段階
- はじめにホルモンが出すぎる時期(動悸・汗・発熱・体重が減る・イライラ・ふるえ)
- そのあとホルモンが足りなくなる(だるい・むくむ・便秘・体重が増える・寒がりになる・脈がゆっくりになる)
多くは軽く、定期的な採血(甲状腺ホルモンの検査)で見つかります。
治療は、ほかの多くのirAEと違ってステロイドは基本的に使いません。ホルモンが出すぎる時期は、動悸などを抑える薬(β遮断薬)で症状をやわらげます。足りなくなったら、甲状腺ホルモンの飲み薬で補います。ホルモンが足りない状態は7〜8割の方で元に戻らず、飲み薬を続けることになりますが、きちんと補えばふつうに過ごせます。みてもらうのは内分泌内科です。
下垂体(かすいたい)の機能低下
下垂体は、脳の下にある「ホルモンの司令塔」です。ここがダメージを受けると、そこから出される指令のホルモンが下がり、体のあちこちでホルモンが足りなくなります。頻度は0.5〜1.1%とまれですが、国内の抗PD-1抗体の調査では6.0%との報告もあります。出やすい時期は6〜12週ごろですが、治療が終わったあとに出ることもあります。
抗PD-1/抗PD-L1抗体では、副腎を動かす指令のホルモン(ACTH)だけが下がることが多く、その結果として、次に説明する副腎のはたらきも下がります。
この副作用の注意点は、症状が「だるい・食欲がない・体重が減る・力が入らない・血圧が下がる」といった、ふつうの疲れと区別しにくいものであることです。だからこそ見逃されやすく、「なんとなく元気が出ない」が続くときは相談する価値があります。下垂体が腫れると、頭痛や物の見えづらさ(視野の異常)が出ることもあります。
治療は、足りなくなったホルモンを飲み薬で補います。下がったホルモンは元に戻らないことが多く、補充を続けることになりますが、きちんと補えばふつうに過ごせます。みてもらうのは内分泌内科です。
副腎(ふくじん)の機能低下
副腎は、腎臓の上にある小さな臓器で、体を保つホルモン(コルチゾルなど)を出しています。このはたらきが下がるirAEで、頻度は0.7〜0.9%とまれです。出やすいのは、治療開始から1〜数ヶ月ごろです。
症状は、上の下垂体の項とよく似ていて、全身のだるさ・食欲がない・体重が減る・吐き気や腹痛・血圧が下がる・気分が落ち込む、などです。ふつうの疲れと区別しにくいのも同じです。
治療は、足りなくなったホルモン(ステロイドのヒドロコルチゾンなど)を飲み薬で補います。多くは続ける必要がありますが、補えば元気に過ごせます。塩分が失われるタイプでは、別のホルモンの薬を足すこともあります。みてもらうのは内分泌内科です。
1型糖尿病
まれ(0.3〜3.49%)ですが、見逃すと命に関わることがあり、しかもほかのirAEと対処がまったく違うため、とくに知っておいてほしい副作用です。
血糖を下げるインスリンを出す膵臓の細胞が壊されて、血糖が急に上がります。出る時期は幅広く、治療開始からしばらくたって出ることもあります。
治療は、ほかのirAEのようなステロイドではなく、インスリンで血糖を下げます(この1型糖尿病にはステロイドは効かず、むしろ血糖を上げてしまいます)。一度発症すると、壊れた細胞は元に戻らないため、インスリンを続けることになります。だからこそ、定期的な血糖のチェックが大切です。みてもらうのは糖尿病内科です。
インフュージョンリアクション(点滴のときの反応)
点滴の最中〜直後(とくに初回の、点滴開始から30分以内)に出る反応で、頻度は1〜4%です。ほかのirAEと違って、その場で体感するのが特徴です。
症状は、発熱・悪寒・かゆみ・発疹・血圧や脈の変動・唇やまぶたの腫れ・息苦しさなどです。点滴中に起こるので、看護師や医師がすぐ気づけます。
多くは軽く、点滴の速度をゆっくりにしたり、いったん止めて薬を使ったりすれば治まり、治療は続けられます。次回から、あらかじめ予防の薬を使うこともあります。
まれだけれど、注意しておきたいirAE
頻度は低いものの、知っておくと安心なirAEもまとめます。数は少なくても、心臓の副作用のように急いで対応すべきものが含まれます。
| 副作用 | めやすの頻度 | みてもらう科 |
|---|---|---|
| 神経・筋肉・関節の障害 | 1〜4%(多くは軽いしびれ) | 脳神経内科/リウマチ・膠原病内科 |
| 目の障害 | 約1% | 眼科 |
| 心臓の障害(心筋炎など) | 0.06〜0.5%(まれだが要注意) | 循環器内科 |
| サイトカイン放出症候群 | 0.1%未満(ごくまれ) | 重症時は救急・集中治療 |
神経・筋肉・関節の障害は、多くが手袋や靴下をはいた部分のようなしびれ(感覚だけの軽いもの)で、治療を続けられることもあります。ただし、手足の力が入らなくなって進む・まぶたが下がる・物が二重に見える・息がしづらいといった症状は、重い神経や筋肉の障害(ギラン・バレー症候群に似た麻痺や、重症筋無力症)のサインのことがあり、急いで対応が必要です。みてもらうのは脳神経内科やリウマチ・膠原病内科です。
目の障害は、かすむ・まぶしい・黒い点が飛ぶ・物が二重に見える・目の痛みや充血が続くなどです。自覚症状が軽くても、生活に響くことがあるので、我慢せず眼科を受診してください。
心臓の障害(心筋炎など)は、頻度はごくまれ(0.06〜0.5%)ですが、急に進んで命に関わることがあるため、もっとも気をつけたいirAEのひとつです。息切れ・胸の痛みや圧迫感・動悸・強いだるさ・失神などが出たら、すぐに連絡・受診してください。とくに、手足に力が入らない症状と、息切れや動悸が重なるときは注意が必要です。みてもらうのは循環器内科です。
サイトカイン放出症候群は、発熱や血圧低下などが急に強く出る全身の反応ですが、免疫チェックポイント阻害薬では非常にまれです。
irAEの治療|2つの考え方
たくさんの副作用が出てきましたが、治療の考え方は大きく2つに分けられます。
治療の2つの考え方
- 免疫を抑える … 皮膚・腸・肺・肝臓・腎臓・神経などの多くのirAEは、重ければステロイドで免疫のはたらきを抑えます
- 足りないホルモンを補う … 甲状腺・下垂体・副腎・1型糖尿病などホルモンの臓器のirAEは、免疫を抑えるより、足りなくなったホルモン(甲状腺ホルモン・ステロイド・インスリンなど)を補います
とくに1型糖尿病は、ステロイドがむしろ逆効果になるため、インスリンで治療します。同じ「免疫療法の副作用」でも、出る場所によって対処が違うのですね。
irAEの見つけ方|2つのタイプ
見つけ方にも2つのタイプがあります。
見つけ方の2つのタイプ
- 症状で気づくもの … 皮膚・腸・肺・神経など。「いつもと違う」を感じたら伝えることが早期発見につながります
- 症状が出にくく、検査で見つけるもの … 肝臓・腎臓・甲状腺・副腎など。症状が出ないうちに採血で見つかることが多いです
だからこそ、症状がなくても、決められた通院と定期的な採血を続けることが大切です。「元気だから大丈夫」ではなく、検査そのものが体を守ってくれています。
協力してくれる、たくさんの診療科
irAEは全身のどこにでも出るため、主治医(乳腺の担当)だけでなく、その臓器の専門家がチームで見守ります。
irAEで協力してくれる主な診療科
- 皮膚科 … 皮膚の障害
- 消化器内科 … 下痢・大腸炎、肝臓の障害
- 呼吸器内科・感染症科 … 肺の障害
- 腎臓内科 … 腎臓の障害
- 内分泌内科・糖尿病内科 … 甲状腺・下垂体・副腎の異常、1型糖尿病
- 脳神経内科・リウマチ・膠原病内科 … 神経・筋肉・関節の障害
- 眼科 … 目の障害
- 循環器内科 … 心臓の障害
- 救急・集中治療 … 重症のとき
こんなに多くの科が関わるのはがん治療の中でもirAE特有。それだけ体全体を手厚く見守る必要がある、ということでもあります。がん治療アベンジャーズ。遠慮なく頼ってくださいね。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。