「転移」という言葉。乳がんの説明で必ず出てくるのに、ちゃんと理解できているかと聞かれると、ちょっと自信がない方も多いと思います。
このページでは、転移とは何か、なぜ起こるのか、どうやって防ぐのかを、できるだけやさしく解説します。
転移とは「がん細胞が引っ越して、新しい場所で増えること」
転移(てんい)は、もとの場所(乳房)でできたがん細胞が、
- 血管やリンパ管に乗って
- 別の臓器に運ばれて
- そこで増え始める
という現象です。
引っ越して、新しい家で根を下ろす、というイメージに近いです。
転移には大きく2種類
転移と呼ばれるものには、大きく2種類あります。
転移の2つのタイプ
- 領域リンパ節転移:脇の下や鎖骨のリンパ節に移ったもの(近距離)
- 遠隔転移:骨・肺・肝臓・脳・遠くのリンパ節など、離れた臓器に移ったもの(長距離)
乳房の近くのリンパ節転移(領域リンパ節転移)は、まだ手術や放射線で取り除けることが多く、治癒を目指せます。
遠隔転移は、完全にがんを体から取り除くことが非常に難しい、ステージⅣの状態です。
転移には「7つの壁」がある
がんだからといって、そう簡単に転移を起こすわけではありません。
がん細胞が転移を成功させるためには、実はいくつかの壁を乗り越える必要があります。
転移までに乗り越える主な壁
- ① 浸潤の壁:乳管(ミルクの通り道)の壁を破る
- ② 侵入の壁:血管・リンパ管に入り込む
- ③ 生存の壁:血流のなかで生き延びる
- ④ 停止の壁:遠くの臓器の入口で止まる
- ⑤ 脱出の壁:再度血管やリンパ管から外に抜け出す
- ⑥ 定着の壁:新しい環境に住み着く
- ⑦ 生存の壁その2:そこで生き延びて、増えていく
これだけのハードルを全部突破できる細胞は、ごく一部です。だから「がんがあれば必ず転移する」わけではありません。
「目に見えないがんのタネ」の話
ここで、もう少し進んだ話を。
乳がんの治療では、「微小転移」という考え方があります。
手術でしこりを取りきっても、実は目に見えないがんのタネがすでに全身に散らばっている可能性があります。これを放っておくと、数年後に芽を出して転移として現れることがあります。
これを防ぐために、抗がん剤やホルモン療法で、タネのうちに摘んでしまう。これが、手術以外の治療を勧められる理由です。
「手術で全部取ったのに、なんで抗がん剤も?」という疑問の答えは、ここにあるんだ。
目に見えないタネを、芽が出る前にやっつけておきたいから。
転移を見つけるための検査
転移があるかどうかは、画像検査で調べます。
転移を調べる主な検査
- 造影CT:肺・肝臓・リンパ節の評価
- 骨シンチグラフィー:骨転移の評価
- MRI:脳転移・脊椎の評価
- PET-CT:全身を一度にスクリーニング
- 血液検査(腫瘍マーカー):補助的に使う
ステージや症状に応じて、これらの検査を組み合わせて、治療を始める前に「離れた臓器に転移がないか」を確認します。
再発したら「治らない」ってホント?
これはある意味本当で、ある意味間違いです。
確かに遠隔再発(離れた臓器への再発)は、現在の医療では体からがんを完全に無くすことが難しいと考えられています。
でも、「治療を続けながら長く元気に生きていく」ことは十分可能です。乳がんは進行が比較的ゆっくりなので、抗がん剤・ホルモン療法・抗HER2療法などをうまく組み合わせることで、10年・20年と過ごす方もたくさんいます。
特にHER2タイプは治療がよく効き、寛解状態(目に見えるがんがすべてなくなった状態)になる方もいます。なかには、長く落ち着いた状態が続いて、治療の終了を相談できる方もいます。
「再発=終わり」ではなく、「再発=長く付き合う」と考え方をシフトする時代になっているのです。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。