HER2陽性乳がんは、増殖シグナルを受け取る 「アンテナ」(HER2)をたくさん持っているタイプの乳がんです。
乳がん全体の 15〜20% を占めます。
体には増殖を調節する信号がある
本来、体の中では細胞が勝手に増えすぎないよう、さまざまな信号がやり取りされています。
- 「増えていいよ」という信号
- 「もう増えなくていいよ」という信号
細胞はこれらの信号を受け取りながら、必要なときだけ増えるように調整されています。
HER2陽性乳がんは、この仕組みを利用して大きくなります。
増殖命令を受け取るアンテナ=HER2
HER2陽性乳がんの細胞には、HER2(Human Epidermal growth factor Receptor 2、ヒト上皮成長因子受容体2)というタンパク質がたくさん存在しています。
HER2は細胞表面にある 受容体——外からの信号を受け取る装置です。イメージは、細胞の表面に立っている アンテナ。
体の中から「増えてよい」という信号が出ると、このアンテナがそれを受け取り、「増殖せよ」という命令を細胞の中に伝えます。
アンテナが多すぎると、暴走する
通常の細胞にもHER2は少しあります。たまに増殖シグナルを受け取って、必要なときに細胞を増やしています。
ところが HER2陽性乳がんでは、このアンテナが 何十倍〜何百倍 もあるため:
- ちょっとした信号でも大反応してしまう
- ずっと増殖モードのまま
- どんどん増える
という 暴走状態 になります。これが HER2陽性乳がんの特徴です。
昔は「治療が難しい乳がん」だった
かつて HER2陽性乳がんは、乳がんの中でも進行が早く、再発しやすいタイプ でした。生存率も他のサブタイプより低く、患者さんにとっては厳しいタイプと言われていました。
しかし、現在は状況が 大きく変わっています。
理由は、HER2を狙った分子標的薬「抗HER2薬」が開発されたから。
アンテナを狙い撃つ抗HER2薬
HER2陽性乳がんは、このアンテナそのものが治療の的になります。
代表的な抗HER2薬
- トラスツズマブ(ハーセプチン):HER2にくっついて働きを止める
- ペルツズマブ(パージェタ):HER2の別の場所にくっつく
- フェスゴ(皮下注射版):トラスツズマブ+ペルツズマブの皮下注射タイプ。短時間で済む
- T-DM1(カドサイラ):抗体に抗がん剤をつけた薬
- T-DXd(エンハーツ):もっと強力なADC
これらの薬は HER2 にピンポイントで結合し、
- 増殖の信号を伝えにくくする
- 免疫細胞ががんを攻撃しやすくする
といった働きをします。つまり、アンテナを標的にしてがんを狙い撃ちする治療 です。
詳しくは No.2200 抗HER2療法とは を。
治療成績は大きく改善した
抗HER2薬の登場によって、HER2陽性乳がんの治療成績は 激変 しました。
現在では「治療の効果が十分に期待できる乳がんの一つ」と考えられ、適切に治療すれば ホルモン陽性と同等以上の生存率 が得られるようになっています。
古い情報だけ読んで不安になっていないかな?
HER2陽性は、ここ20年で「もっとも治療が進歩したサブタイプ」のひとつ。希望を持って治療に進んでいいよ。
治療の柱
HER2陽性乳がんの標準治療
- 手術
- 抗がん剤(特にタキサン系)
- 抗HER2療法(術前・術後ともに必須、通常1年間)
- 放射線(部分切除なら基本)
- ホルモン陽性も合併していれば、ホルモン療法も追加
その他の特徴
HER2陽性乳がんの傾向
- 再発リスクは比較的早い時期(2〜5年)に集中
- 5年経てば再発リスクはぐっと下がる
- 脳に転移しやすい傾向(ただし新しい薬で脳転移にも効くものが登場)
- ホルモン陽性も合併する場合がある(Luminal HER2型)
まとめ
不安な気持ちも大きいと思いますが、現在の乳がん治療は大きく進歩しています。主治医と相談しながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。