乳がんの治療には、髪が抜ける・吐き気が出る・手足がしびれる――といった「目に見えやすい副作用」がたくさんあります。
でもその中に、ちょっと毛色の違う副作用があります。見た目には分かりにくいのに、見逃すとこわい――それが肺の副作用です。
「最近、階段でちょっと息が切れるな」「乾いた咳がなんだか続くな」。そんな”なんとなくの不調”が、実は大事なサインだったりします。
この記事では、乳がん治療で注意したい肺の副作用(間質性肺炎・放射線性肺臓炎)について、なぜ早く気づくことがそんなに大事なのかを、やさしく解説していきます。
そもそも「間質性肺炎」って?
肺は、酸素を取り込む小さな袋(肺胞)が、ブドウの房のようにびっしり集まってできています。その袋と袋の”あいだの壁”のことを、間質(かんしつ)と呼びます。
間質性肺炎は、この”壁”に炎症が起きて、かたく・厚くなってしまう状態。壁が厚くなると酸素がうまく取り込めなくなり、咳や息切れが出てきます。
そして、その引き金が薬であるものを、とくに薬剤性肺炎(薬剤性間質性肺炎)と呼びます。
起こりやすい薬
乳がんの治療薬の中でも、特に気をつけておきたいのが次のような薬です。
間質性肺炎に注意したい薬
- T-DXd(エンハーツ):間質性肺炎の頻度が高めで、もっとも注意が必要
- T-DM1(カドサイラ)
- エベロリムス(アフィニトール):報告される頻度が高めの薬のひとつ
- パルボシクリブ(イブランス)・アベマシクリブ(ベージニオ)などのCDK4/6阻害薬(まれ)
- ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害薬
とくに T-DXd(エンハーツ) は、効果が高い一方で間質性肺炎の頻度が高めなので、使用中は念入りな観察が必要です。
ただ、大事なのはここから。実は「この薬だけ」というわけではなく、抗がん剤・分子標的薬・免疫の薬など、どんな薬でも起こりうるのが間質性肺炎です。それどころか、市販の薬や漢方薬、健康食品・サプリメントが引き金になることもあります。
だからこそ、薬の種類にかかわらず「あれ?」という症状に気づくこと、そしていま飲んでいるものは、市販薬やサプリメントも含めて主治医に伝えておくことが、とても大切です。
放射線性肺臓炎
もうひとつが、放射線による肺の炎症です。
胸(乳房や胸壁、まわりのリンパ節の領域)に放射線治療を行ったあと、放射線が当たった範囲の肺に炎症が起こることがあります。これが放射線性肺臓炎です。
- 治療が終わってから、だいたい1〜6か月ごろに出ることが多い
- 放射線が当たった範囲に限られることがほとんど
- 多くは軽症で、自然によくなる
ただし、範囲が広いときや、咳・息切れが強いときは、間質性肺炎と同じように治療が必要になることもあります。
どんな症状に気づけばいい?
間質性肺炎も放射線性肺臓炎も、出てくる症状はよく似ています。共通して多いのは、次のようなサインです。
がまんしたり、「次の診察まで様子を見よう」と先のばしにせず、気づいたそのときに連絡すること。これが何より大切です。
なぜ「早期発見」がそんなに大事なの?
間質性肺炎は、軽いうちに原因の薬を止めれば、多くの方が回復します。
一方で、気づくのが遅れて進行すると、急に呼吸が苦しくなって、重症化し、命に関わることもあります。
しかも、同じ「間質性肺炎」でも、ステロイドがよく効いて回復するタイプもあれば、急速に悪くなってしまうタイプもあります。そして、どのタイプなのかは早い段階では見分けがつきません。
だからこそ「まだ軽いから大丈夫」と油断せず、早めに動くことが大事なのです。これが、ちょっとした咳や息切れも軽く見てはいけない理由です。
検査と治療
検査でみるもの
- 胸のCT(とくに細かく見るHRCTという撮り方)
- 血液検査(KL-6・SP-D という、肺の炎症を映す数字)
- 血液中の酸素(パルスオキシメーターで測るSpO₂)
治療
治療の基本は、原因になっている薬を見つけて止めること。軽いうちなら、それだけでよくなることもあります。
- まず原因の薬を止める(これが基本)
- 炎症をしずめるステロイド
- 必要に応じて酸素を補う(酸素療法)
自分でできる早期発見
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。