乳がんが転移する先は、実はだいたい決まっています。
骨・肺・肝臓・脳——この4つが代表です。ここでは、それぞれの場所で何が起こるのか、症状や治療を整理します。
なぜがんの種類によって場所が違うの?
「血流に乗って運ばれるなら、どこにでも転移しそう」と思いますよね。
でも、がん細胞が新しい場所で住み着くには、その臓器の環境と「相性」が良くないといけません。乳がんは、特に骨・肺・肝臓・脳と相性が良く、これらの臓器に転移しやすいことが知られています。
サブタイプによっても傾向が違います。
サブタイプ別・転移しやすい場所の傾向
- ホルモン陽性:骨に行きやすい
- HER2陽性:脳に行きやすい
- トリプルネガティブ:肺・肝臓・脳に行きやすい
① 骨転移(もっとも頻度が高い)
乳がんの遠隔転移でもっとも多いのが骨転移です。
実は骨は、がん細胞を呼び寄せる物質(ケモカイン)を出しています。さらに骨は、「壊れて → 作り直される」というサイクル(骨リモデリング)を一生くり返していて、このとき骨の中から成長因子という物質が放出されます。乳がん細胞はこの成長因子を利用して、自分が増殖しやすい環境を作ってしまう——これが、乳がんが骨に転移すると増えやすい理由のひとつと考えられています。
そこで活躍するのが「骨修飾薬」です。ゾレドロン酸やデノスマブ(ランマーク)などの薬は、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑えます。骨が壊れるのを防いで骨折や痛みを防ぐだけでなく、がんが増えやすい環境そのものを抑える役割もあるんですね。
骨転移の症状
- じっとしていても出る骨の痛み(特に夜間)
- 動いたときの痛み
- しびれ(背骨に転移して神経を圧迫)
- 骨折しやすくなる
- 高カルシウム血症(吐き気・だるさ・意識がぼんやり)
② 肺転移
肺は酸素を取り込む臓器なので、転移が広がると呼吸機能に影響が出ます。また、肺を包む袋(胸膜)にも転移を起こすことがあり、がんによる炎症でその袋のなかに水がたまる「胸水(きょうすい)貯留」が起こることもあります。胸水がたまると肺がふくらむスペースが減り、息苦しさにつながります。
肺転移の症状
- 咳が続く
- 息切れ
- 胸の痛み
- 進行すると、安静時でも呼吸が苦しい
肺転移は、画像検査で偶然見つかることも多いです。初期は無症状で気づきにくいのが難点です。
③ 肝臓転移
肝臓は「体の化学工場」のような臓器で、栄養の処理や毒素の分解を担当しています。
肝臓転移の症状
- お腹の張り
- 食欲低下、体重減少
- 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)
- だるさ
- 肝機能の数値の異常(血液検査でわかる)
肝臓は予備能力が高い臓器なので、ある程度進行するまで症状が出にくいのが特徴です。転移したがん細胞で肝臓の大部分が占拠されてしまうと、毒素(特にアンモニア)を分解できなくなり、脳に悪影響を及ぼす「肝性脳症(かんせいのうしょう)」という状態になることもあります。
④ 脳転移
脳に転移したがんは、その場所に応じて症状が変わります。また、脳にできた腫瘍で脳のなかが圧迫されて圧力が高くなり(脳圧の上昇)、頭痛や吐き気につながるのもよくあるパターンです。
脳転移の症状
- 頭痛(特に朝方に強い)
- 吐き気
- まひ(手足が動かしにくい)
- 言葉のしにくさ・話しにくさ
- ふらつき
- けいれん
- 視野の異常
まずは症状を見逃さないこと
「最近、骨が痛い」「咳が続く」など気になる症状がある場合、主治医に伝えれば必要な検査をしてくれます。
多くの患者さんが「腫瘍マーカーで転移を調べている」と思われていますが、実は腫瘍マーカーは、そこまで当てになる数値ではありません。腫瘍マーカーが上がっていても転移がないこともあれば、転移があっても腫瘍マーカーが上がらないこともあります。あくまで、上がり傾向・下がり傾向をみて、転移の検知や治療効果の推定に「補助的に」使うものです。
だからこそ、主治医が最も頼りにしているのは、患者さんご自身の「症状の訴え」です。気になる症状は、遠慮なく相談してください。
転移を詳しく調べるための検査:
- 造影CT:脳以外の全身(PET-CTよりやや見つけにくいことがあり、骨シンチと組み合わせることも)
- 骨シンチグラフィー:骨
- PET-CT:脳以外の全身
- MRI:脳・脊椎・肝臓
特に、骨・肝臓・脳のうち「ここが痛い/調子が悪い」と特定できる場合は、その場所のMRIなどを優先します。
ちょっとした症状でも、ためらわず主治医に伝えてね。「気にしすぎかな」と思っても、伝えること自体が大事。違うとわかれば安心できるし、もし本当だったら早く対処できる。
「転移=終わり」ではない
最後に、これだけは忘れないでください。
転移が見つかったあとも、治療を続けながら、何年も穏やかに過ごしている方はたくさんいます。
乳がんの遠隔転移治療は、年々進歩しています。新しい薬(抗体薬物複合体・分子標的薬・免疫療法)が次々と承認され、選択肢が増え続けています。
詳しくは No.2032 転移再発乳がんの治療 をご覧ください。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。