サシツズマブ ゴビテカン
さしつずまぶごびてかん (トロデルビ)
がん細胞の表面にたくさんあるTROP2というたんぱくをめじるしにして、抗体にくっつけた抗がん剤(SN-38)をがん細胞の中まで運びこむ薬だよ。抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる仲間だね。
トリプルネガティブ乳がんの転移・再発で「抗がん剤のあとに使う薬」として最初に認められた薬で、2026年からはホルモン陽性HER2陰性の転移・再発にも使えるようになったよ。
効き目は確かだけど、白血球の減少と下痢が強めに出る。だから、それを防ぐ注射や下痢止めとセットで使う薬なんだ。
専門的な説明を見る
抗TROP2抗体サシツズマブに、イリノテカンの活性体SN-38を結合した抗体薬物複合体(ADC)。日本では、化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性(トリプルネガティブ)の手術不能または再発乳癌(2024年9月承認)と、化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌(2026年3月)が対象。1回10mg/kgを、3週間を1サイクルとして1日目と8日目に点滴する。ASCENT試験・TROPiCS-02試験で、医師選択の抗がん剤にくらべて無増悪生存と全生存の改善が示された。
基本情報
よくある副作用
| 症状 | 対処法 |
|---|---|
| 白血球(好中球)の減少 | いちばん多い副作用で、重いものも半数近くの人に出ます。投与の1週間後ごろがいちばん下がります。白血球を増やす注射(G-CSF)で予防することも多い。38℃以上の熱が出たらすぐ連絡 |
| 下痢 | 6割の人に出て、重いものが1割。下痢止め(ロペラミド)をあらかじめ処方してもらい、始まったら早めに飲む。水分をしっかりとる。1日に何度も続くときは連絡 |
| 吐き気 | 催吐性リスクは中等度。予防の吐き気止めを使ったうえで点滴します |
| 脱毛 | 半数近くの人に出ます。ウィッグや帽子は早めに準備 |
| 貧血 | 治療が進むほど出やすくなります。動悸や息切れ、立ちくらみが強いときは主治医へ |
| だるさ | 治療が長く続くので、だるさが積み重なります。無理をせず休む。強くなってきたら主治医に伝える |
| 点滴中のアレルギー反応 | 解熱鎮痛薬・抗ヒスタミン薬などの前投薬を使い、初回は3時間かけて点滴します。点滴の最中に異変を感じたら、その場で看護師に |
病院に連絡する目安
すぐに連絡
- 38℃以上の熱が出た(とくに投与の1週間後ごろ)。夜間や休日でも (発熱性好中球減少症)
- 下痢が1日に7回以上、または血便、または水分がとれない (下痢)
- 点滴の最中に、息苦しい・じんましん・顔がはれた。その場で看護師に (インフュージョンリアクション)
- 息切れ・空咳が続く(まれに肺の炎症)
その他の基準
- 下痢止めを飲んでも下痢が2日以上続く
- 口内炎で食事がとりにくい
- 便秘が続く
- 眠れない、気分が落ち込む
迷ったら連絡してください。連絡先(病院の電話番号と、夜間・休日の窓口)は、初回の点滴のときに確認しておきましょう。
白血球の減少と下痢が強めに出る理由
この薬が運ぶ抗がん剤SN-38は、イリノテカンという抗がん剤が体の中で変わったものと同じです。イリノテカンの副作用として知られる白血球の減少と下痢が、この薬でも中心になります。
SN-38を分解する酵素(UGT1A1)の働きが生まれつき弱い人では、副作用が強く出やすいことが分かっています。日本人を含むアジアの人では、欧米の人より白血球の減少が多く報告されていますが、薬をやめるほどの副作用の割合は変わりませんでした。
だから、白血球を増やす注射(G-CSF)や下痢止めを、はじめから用意して使います。ASCENT試験では、半数の人が白血球を増やす注射を使っていました。
エンハーツ・ダトロウェイとの違い
3つとも「抗体に抗がん剤をくっつけて、がん細胞に運ぶ薬(抗体薬物複合体)」です。
トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)はHER2をめじるしにするので、HER2陽性やHER2低発現の乳がんに使います。
サシツズマブ ゴビテカン(トロデルビ)とダトポタマブ デルクステカン(ダトロウェイ)は、どちらもTROP2をめじるしにしますが、運ぶ抗がん剤と、くっつけ方が違います。トロデルビは白血球の減少と下痢、ダトロウェイは口内炎と目の乾きが、それぞれ出やすい副作用です。
同じめじるしの薬を続けて使ったとき、2つ目の効き目が弱くなる可能性が指摘されていて、順番の決め方はまだ研究の途中です。
転移・再発の最初の治療として使う試験が行われた
日本では2026年9月の時点では、再発治療の、1つ目に使う抗がん剤のあと、2つ目以降に使うことができるお薬です。
しかし世界では、転移・再発したトリプルネガティブ乳がんの最初の治療として調べた試験が2つ行われ、結果が発表されています。
PD-L1陰性などで免疫チェックポイント阻害薬が使えない人を対象にしたASCENT-03試験では、がんが大きくならずに過ごせた期間の中央値が、抗がん剤の6.9ヶ月に対して9.7ヶ月でした。
PD-L1陽性の人を対象にペムブロリズマブ(キイトルーダ)とサシツズマブ ゴビテカン(トロデルビ)を併用したASCENT-04試験では、抗がん剤+ペムブロリズマブの7.8ヶ月に対して11.2ヶ月でした。
今後日本でも1つ目の治療として使えるようになるかどうかは、今後の承認しだいですが、期待していたいですね。
臨床試験
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ASCENT
抗がん剤の治療を2つ以上受けたあとの転移・再発トリプルネガティブ乳がん468人(脳転移なし)を、サシツズマブ ゴビテカンと医師が選んだ抗がん剤に分けた試験です。がんが大きくならずに過ごせた期間の中央値は5.6ヶ月と1.7ヶ月、生存期間の中央値は12.1ヶ月と6.7ヶ月でした。
Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-41. PubMed
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TROPiCS-02
ホルモン療法とCDK4/6阻害薬のあと、抗がん剤も2〜4種類使ったホルモン陽性HER2陰性の転移・再発乳がん543人を、サシツズマブ ゴビテカンと医師が選んだ抗がん剤に分けた試験です。生存期間の中央値は14.4ヶ月と11.2ヶ月でした。
Rugo HS, et al. Lancet. 2023;402:1423-33. PubMed
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ASCENT-J02(日本人)
日本人の転移・再発トリプルネガティブ乳がん36人にサシツズマブ ゴビテカンを使った第2相試験です。4人に1人でがんが小さくなり、がんが大きくならずに過ごせた期間の中央値は5.6ヶ月と、ASCENT試験と同じ方向でした。副作用で薬をやめた人はいませんでした。
Naito Y, et al. Int J Clin Oncol. 2024;29:1684-95. PubMed