催吐性リスク
さいとせいりすく(Emetic risk (emetogenic risk))
抗がん剤の吐き気の強さを4段階に分けたものだよ。
「吐き気止めをまったく使わなかったら、何%の人が吐くか」で分けていて、いちばん強い高度だと、吐き気止めなしで使った人のなかで実際に吐いてしまう人の9割、つまり10人に9人は吐き気だけでは収まらず、実際に吐いてしまうんだ。
だから、いまはこの段階に合わせて吐き気止めを組み合わせて予防する。吐き気止めの質も年々よくなっているから、実際に吐く人はずいぶん少なくなったんだ。
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抗がん剤を、吐き気止めを使わずに投与したときに24時間以内に嘔吐する人の割合で4段階に分けた分類。高度(90%を超える)・中等度(30%を超えて90%まで)・軽度(10〜30%)・最小度(10%未満)。この段階に応じて、予防の吐き気止めの組み合わせが決まる。複数の薬を使うときは、いちばん催吐性リスクの高い薬に合わせる。日本癌治療学会の制吐薬適正使用ガイドラインによる。
- 何の分類
- 抗がん剤(注射と飲み薬)。ホルモン療法の薬は対象外
- 決め方
- 吐き気止めを使わずに投与したとき、24時間以内に嘔吐した人の割合
- 段階
- 高度・中等度・軽度・最小度の4段階。病院ではHEC・MEC・LECと呼ぶことも
- 複数の薬を使うとき
- いちばん催吐性リスクの高い薬に合わせて吐き気止めを決める
4段階の分け方
| 催吐性リスク | 嘔吐した人の割合 | 病院での呼び方 |
|---|---|---|
| 高度 | 90%を超える | HEC |
| 中等度 | 30%を超えて90%まで | MEC |
| 軽度 | 10%から30%まで | LEC |
| 最小度 | 10%未満 |
割合は、吐き気止めを使わなかった場合の数字です。いまはこの段階に合わせて予防するので、実際に吐く人はこれよりずっと少なくなります。
制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂 第3版(日本癌治療学会 編)を元に作成
乳がんで使う薬の分類
| 催吐性リスク | 薬・レジメン |
|---|---|
| 高度 | AC療法、EC療法、FEC療法・FAC療法、dose-dense AC療法・dose-dense EC療法、ドキソルビシン(1回60mg/m²以上)、エピルビシン(1回90mg/m²以上)、シスプラチン |
| 中等度 | TC療法、カルボプラチン ※1、ドキソルビシン(1回60mg/m²未満)、エピルビシン(1回90mg/m²未満)、シクロホスファミド(飲み薬)、トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)※2、サシツズマブ ゴビテカン(トロデルビ)※2、ダトポタマブ デルクステカン(ダトロウェイ)※3、オラパリブ(リムパーザ)、イリノテカン |
| 軽度 | ドセタキセル(タキソテール)、パクリタキセル(タキソール)、nab-パクリタキセル(アブラキサン)、トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)、ゲムシタビン(ジェムザール)、エリブリン(ハラヴェン)、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(ゼローダ)、テガフール・ギメラシル・オテラシル(ティーエスワン)、エベロリムス(アフィニトール)、タラゾパリブ(ターゼナ)、アベマシクリブ(ベージニオ)、パルボシクリブ(イブランス)、ラパチニブ(タイケルブ)、ツカチニブ(ツカイザ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、カピバセルチブ(トルカプ)※3 |
| 最小度 | トラスツズマブ(ハーセプチン)、ペルツズマブ(パージェタ)、ペルツズマブ・トラスツズマブ配合(フェスゴ)、ベバシズマブ(アバスチン)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ビノレルビン(ナベルビン) |
※1 カルボプラチン:分類は中等度ですが、AUCが4以上のときは吐き気止めを高度に準じて3種類組み合わせます。
※2 トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)とサシツズマブ ゴビテカン(トロデルビ):エンハーツは臨床試験で嘔吐した人の割合が70%前後と、中等度のなかでは高いほうです。トロデルビも同様と考えられています。アメリカのNCCNガイドラインはこの2剤を高度に分類していますが、日本のガイドラインは定義どおり中等度としたうえで、今後、吐き気止めは高度に準じた3種類の組み合わせになる可能性があるとしています。
※3 ダトポタマブ デルクステカン(ダトロウェイ)とカピバセルチブ(トルカプ):ガイドライン第3版(2023年10月)より後に承認された薬で、分類表には載っていません。添付文書で報告されている悪心の割合(ダトロウェイ51.1%、カピバセルチブ27.3%)と、同じ仕組みの薬の分類から置いています。主治医にご確認ください。
制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂 第3版(日本癌治療学会 編)を元に作成
たくさん吐く人ほど抗がん剤がよく効いているって本当?(誤解です)
昔から都市伝説のように、「吐くほうががんに効いているから、吐き気止めは使わない方がいい」と考えられている方がいますが、これは間違いです。吐き気は副作用であって、薬の効果とは別の話です。吐かないように予防することは、治療の効果を下げません。
いまは吐き気止めが何種類もあり、催吐性リスクに合わせて組み合わせて予防します。
カルボプラチンのように使う量(AUC)によって中等度から高度にかわるものもある
カルボプラチンの分類は中等度ですが、量が多いとき(AUCが4以上)は、中等度のなかで吐き気が強いほうに入ります。そのため、高度と同じように、5-HT3受容体拮抗薬・デキサメタゾン・NK1受容体拮抗薬の3種類を組み合わせて予防します。
乳がんでカルボプラチンを使うレジメン(TCH療法、TCHP療法、ペムブロリズマブ併用療法(周術期)など)は、多くがこの量にあたります。
トラスツズマブデルクステカン(エンハーツ)は日本とアメリカで区分が異なる
トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)は、臨床試験で嘔吐した人の割合が70%前後と、中等度の定義(30%を超えて90%まで)には入るものの、中等度のなかでは高いほうです。アメリカのNCCNガイドラインは高度に分類しています。
日本のガイドラインは定義どおり中等度としていますが、今後の臨床試験の結果しだいで、カルボプラチン(AUC4以上)と同じように、吐き気止めは高度に準じた3種類の組み合わせになる可能性があるとしています。施設によっては、はじめから3種類で予防しているところもあります。
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参考資料
- 制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂 第3版(日本癌治療学会 編)