「治療後に、子どもを持ちたい」
「いまはまだ決めていないけれど、その可能性は残しておきたい」
乳がんの治療を前に、そんな思いを抱える方がいます。とても大切な、あなただけの気持ちです。
ここで知っておいてほしいのは、妊孕性(にんようせい・妊娠する力)を守るための準備は、多くの場合、治療を始める前に考えておく必要がある、ということ。タイミングが関わってくるからこそ、早めに知っておくことが、これからの支えになります。
この記事では、どんな選択肢があるのかを整理していきます。何を選ぶかは、これからゆっくり、主治医や専門の先生と一緒に考えていけば大丈夫です。
なぜ治療前に?
「どうして治療の前に決めないといけないの?」と思いますよね。それには、ちゃんとした理由があります。
抗がん剤やホルモン療法には、こんな影響があるためです。
- 卵巣機能を低下させる
- 早発閉経のリスク
- ホルモン療法5〜10年で年齢が進む
これらは、治療が始まってからでは取り戻すのが難しいものです。だからこそ、治療を始める前にできる準備をしておく、というのが基本になります。
主な選択肢
妊孕性を残す方法は、ひとつではありません。体の状態やパートナーの有無などによって、向いている方法が変わってきます。代表的なものを、ひとつずつ見ていきましょう。
① 卵子凍結
未受精の卵子を凍結保存。
- 採卵周期:2〜3週間
- パートナーがいなくてもできる
- 体外受精で妊娠を試みる時に解凍
- 1周期で5〜15個程度(年齢や体質で個人差が大きい)
② 受精卵凍結
パートナーの精子と受精させてから凍結。
- 妊娠率は卵子凍結より高い
- パートナーが必要
- 法的な問題(離婚時など)も考慮
③ 卵巣組織凍結
卵巣の一部を手術で取り、組織として凍結。
- 実施できる施設は限られる、専門的な方法
- 思春期前の少女には、ほぼ唯一の選択肢
④ GnRHアゴニスト併用
抗がん剤中にゴセレリン(ゾラデックス)などを使い、卵巣を一時的に休ませて守る方法。卵子を「凍結保存」する①〜③とは性質が異なり、卵巣機能の「保護」を目指します。
- 補助的な方法
- 単独では不確実
ここまで読んで、「どれが自分に合っているのか分からない」と感じても大丈夫です。ここで一人で決める必要はありません。違いがよく分からないまま、次の相談のステップに進んでいただいて構いませんからね。
流れ
実際の流れも、ざっとつかんでおきましょう。最初の一歩は、主治医に気持ちを伝えることからです。
妊孕性温存の流れ
- 主治医に「妊孕性温存を考えたい」と伝える
- 不妊治療専門クリニックに紹介
- カウンセリング・相談
- 採卵スケジュール
- 採卵・凍結
- 抗がん剤治療開始
採卵には2〜3週間ほどかかるため、治療開始までの時間との兼ね合いが大切になります。あせらず、でも早めに動き出せるとよいですね。
ホルモン陽性での懸念
ホルモン陽性(女性ホルモンの影響で大きくなるタイプ)の乳がんの方は、「採卵のために女性ホルモンを高めて大丈夫なの?」と心配になるかもしれません。
採卵周期では女性ホルモンが高まるため、
- ホルモン陽性乳がんへの影響を心配する声
- レトロゾール(フェマーラ)を使う特殊なプロトコルで対応
こうした点に配慮した方法が用意されています。リスクは小さいと考えられていますが、不安なことは遠慮なく主治医・専門医に相談してくださいね。
費用と助成
費用の面が気になる方も多いと思います。自費だとまとまった金額になりますが、公的な助成を使える場合があります。
妊娠タイミング
「治療が終わったら、いつ妊娠を考えていいの?」というのも、気になるところですよね。これは、状況によって変わってきます。
治療終了後の妊娠については、
- 抗がん剤後:薬の影響が抜け、再発リスクが落ち着く時期を主治医と相談(半年〜が一つの目安)
- ホルモン療法中:原則妊娠は避ける
- ホルモン療法を中断して妊娠する選択(POSITIVE試験)も
POSITIVE試験は、42歳以下でホルモン療法を1年半〜2年半ほど続けた方が、約2年間だけ中断して妊娠を目指した研究です。中断しても短期間では再発が増えなかったと報告されていますが、まだ長期の結論は出ていません。「もう安心して中断できる」と確定したわけではないので、中断するかどうか・いつ行うかは、必ず主治医と相談してください。
一人ひとりで答えが違う部分です。詳しくは、主治医とよく相談しながら進めていきましょう。
答えを今すぐ出さなくても大丈夫です。まずは「こういう選択肢がある」と知っておくこと。それだけでも、これからを考えていくときの支えになります。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。