「抗がん剤、私はやったほうがいいんだろうか…」
そう悩まれるかた、多いと思います。私の外来でも時間をかけて相談するテーマのひとつです。 脱毛や吐き気のイメージから「できればやりたくない」と思う方も多いはずです。
実は、抗がん剤は乳がんになった全員に行う治療ではありません。
「やったほうがいい人」もいれば、「無理にやらなくていい人」もいて、さらに「やってもやらなくてもいい人」もいます。 大切なのは、自分がどこに当てはまるのかを知ること。
この記事では、そのグループ分けと、自分で納得して決めていくための考え方を紹介します。
決め方の流れ
抗がん剤をやるかどうかは、次のステップで決めていきます。
決め方の4ステップ
- ステップ1:自分のがんの「タイプ」と「広がり」を知る
- ステップ2:①②③のどこに当てはまるか主治医と確認する
- ステップ3:迷うゾーン(③)なら、オンコタイプDXなどで客観評価
- ステップ4:それでも迷うなら、自分の価値観で決める
一つずつ見ていきましょう。
① 抗がん剤をやったほうがいい人
次のようなタイプ・状況の方は、抗がん剤の効果がはっきり大きいため、基本的にお勧めします。
抗がん剤の効果が大きいケース
- HER2陽性タイプ(抗がん剤+分子標的薬を推奨。腫瘍が小さい場合は軽めの薬の組み合わせ(レジメン)を選ぶこともあります)
- トリプルネガティブタイプで、がんが1cm以上の場合
- リンパ節転移が4個以上ある場合
- ステージⅢ(がんが5cm以上、皮膚や胸の壁にひろがっている、など)
これらの場合、抗がん剤をすることで再発のリスクをしっかり下げられることがわかっています。 特にHER2陽性とトリプルネガティブは、抗がん剤がよく効くタイプ。「やる/やらない」で迷う場面は少ないです。
② 抗がん剤をやらなくていい人
逆に、次のような方は抗がん剤をしなくても再発リスクが低いため、ホルモン療法だけで十分なことが多いです。
抗がん剤が省略できることが多いケース
- ホルモン陽性HER2陰性タイプ
- リンパ節への転移がない
- がんが小さい
- 顔つきがおとなしい
「抗がん剤をしないと再発しちゃうのでは?」と心配になるかもしれませんが、このタイプの方は抗がん剤を上乗せしても再発を下げる効果がごくわずか。副作用のつらさのほうが上回ることが多いのです。
③ どちらでもいい人(一番悩むタイプ)
一番迷うのが、
- ホルモン陽性HER2陰性
- リンパ節転移はないか、あっても少ない
- がんの大きさや顔つきが「中くらい」
というケース。
このゾーンでは、抗がん剤を「してもしなくても、再発率が大きくは変わらない」ことが多いのです。
客観的に判断するための検査
判断材料として、オンコタイプDXという遺伝子検査があります。 がん細胞の遺伝子を調べて、再発リスクを点数で出してくれる検査です。
- 点数が高い → 抗がん剤の効果が見込めるのでお勧め
- 点数が低い → 抗がん剤の効果は乏しいので省略可能
- 点数が中くらい → 年齢や本人の希望で判断
詳しくは No.2103 オンコタイプDX を。
自分の価値観で決める
医学的に「どちらでもいい」とわかったら、最後は自分の価値観で決めます。
正解はありません。自分にとって納得できる答えを選ぶことが大切です。
迷ったときに役立つ4つの行動
頭の中だけで考えていると、いつまでも答えが出ないことがあります。 そんなときは、次のような行動が役立ちます。
- 主治医に「もし先生のご家族だったら、どうしますか?」と聞いてみる 遠慮せず聞いてOK。医師の本音が聞ける質問です。
- セカンドオピニオンを取る 別の医師の意見を聞くことで、視野が広がります。主治医に遠慮はいりません。
- 家族や信頼できる人に話してみる 口に出して話すと、自分の本当の気持ちに気づくことがあります。
- 「今決めない」を選ぶ 手術直後など、急いで決めなくていい場面もあります。主治医に「いつまでに決めればいいか」を確認しましょう。
「やらない」選択も尊重されます
主治医に勧められても、
- 副作用がつらすぎてやりたくない
- 生活の質を優先したい
- 数%の上乗せ効果では意味を感じない
こうした理由で「やらない」を選ぶことも、十分尊重される選択です。
ただし、感情だけで決めるのではなく、自分のがんがどのタイプか・どのくらいのリスクかを理解したうえで判断してください。 わからないことがあれば、主治医に何度でも聞き直して大丈夫です。
ベージニオという「追加の選択肢」
ホルモン陽性HER2陰性タイプで再発リスクが高めの方には、**ベージニオ(アベマシクリブ)**という飲み薬が使えることがあります。
これは抗がん剤の「代わり」ではなく、ホルモン療法に「追加する」治療です。
- 抗がん剤をやった後にホルモン療法と一緒に飲むこともある
- 抗がん剤をやらない場合でも、ホルモン療法と一緒に飲むことがある
- リンパ節転移が多い方など、高リスクの方が対象
- 飲み薬で2年間続ける
- 脱毛はないが、下痢の副作用が出やすい
抗がん剤を「やる/やらない」とは別の話として、主治医と相談する選択肢の一つです。
詳しくは No.2105 アベマシクリブ を。
まとめ
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。